見出し画像

【回文〆日記】 #31 川べりの発光体

3月下旬のある午後。

用事をすませて
普段はあまり通らない
川ぞいの道を
自転車で走っていた。

日暮れより
だいぶ手前の時刻だったが
空はどんよりうす暗く
小雨が全身をしめらせた。

うらさみしい気持ちで
ペダルをこいでいたところ

ある地点にさしかかったときに
突然
視界がぱっと明るくなり
はっとした。

色の濃い
早咲きの桜が
1本だけ
ぽつんと。



ソメイヨシノには
まだ早いこの時期に
その木はもう
葉桜になりかけていた。

とはいえ
花にはまだ
ボリュームがあり

灰色がかった川景色に
きわだつ
光を放っていた。

思わず自転車をとめ
じっと見入った。


無数に花がつく
桜という植物は

確率的に考えると

満開になる前に
大きなピンク色の塊を
一定時間
見張っていたら

どの花かが開く瞬間を
たやすく確認できそうだが

残念ながら
これまで一度も
開花する瞬間を
見たことがない。

早朝にいっぺんに
開くのだろうか?

または

間近で見ていても
気づかないくらい
じんわりスローに
開くのだろうか?

視界ぜんたいが
ピンク色のまま
そんなことを考えていたら

霧状の桜成分を
全身にまぶされて
桜人間になったような
感じがした。


花ざかりの桜の
振れ幅はすごい。

おとなしいのに
凶暴。

こんなに生々しい
エネルギーの噴出が
毎春
そこいらじゅうで
起こるなんて

おもしろいやら

こころ乱されるやら。



酔う。濃い桜ひとつ。おそらく桜、そおっと開く。最高よ。

→ ようこいさくらひとつおそらくさくらそおつとひらくさいこうよ ←





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?