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無機質な男たち#小説

「何考えてるかわからない。もう、別れよう」

このセリフでフラれたのは累計4人目で、今回は八カ月。もったほうだななんて考えてしまう。

いつの間にか空が高くなり、ピンクや白のコスモスが揺れ、スーパーの帰り道、サンダルにTシャツだと肌寒ささえ感じる季節になってきた。寂しいし、人恋しいし、なのにフラれてしまった俺は、俺なりに終わったなと思ってる。つまり、絶望している。

いつも思うのは、「仕方ないな」だ。コミュニケーションに自信がないけど、自分なりに相手を理解しようとか、思いやろうと思って行動している。結果、理解されず、去られてしまう。

だんだんと、自分には「感情」の振れ幅みたいなものが壊れていて、他人から見たらサイボーグのようにみえるのかとも思ってきた。確かに、ドライな面はあると思う。

ゆっくりと、ひとりの部屋でコーヒーを淹れる。豆を挽き、そのにおいが部屋に満ちてくると、無くしていた幸せな気持ちがふんわりよみがえる。「今日は久しぶりに映画を見ようかな」なんてだんだんわくわくもしてきた。彼女といたときは、頑張って合わせて彼女の好きな韓流ドラマばかり見ていた。

嫌いじゃないけど、どうでもよかった。その温度みたいなものが、彼女にも伝わっていたのかもしれないな、とふと、思った。

雨が上がり、パリッと晴れた空の中、自転車で職場に向かう。新聞に目を通し、メールをチェックして、一日が始まる。仕事は、好きだった。与えられるものをこなすのは、得意だ。逆に、何かを自分で欲しいと願ったり、行動したりするのは苦手なのかもしれない。

昼、職場近くのつけ麺屋に行くと

「ききましたよー。またフラれたんですか?」

部下の渋井が話しかけてきた。もう知ってる。ウザい。

「そうだよ」

と返しながら激辛つけ麺をオーダーする。渋井は魚介つけ麺に煮卵をオーダー。勝手に、俺の批評が始まる。元カノを紹介してくれたのが、渋井だったから仕方ないが、ガンガン傷口をえぐってくるので俺の胃腸とハートは大荒れだ。

「瑛太先輩、仕事だけじゃなくプライベートもポーカーフェイスなんですね」

「そんなつもりはないけどね」

「全然ダメージなさそうですもん」

「ダメージあるから、可愛い女の子に癒される場所へ連れて行ってくれ。そして奢ってくれ。金も女ももうない」

「また靴買ったんですか?」

「靴しか俺の癒しはない」

「そういうとこっすよ」

実際、フラれた次の日、欲しかった革靴をオーダーしに行った。靴は、不幸な自分をいいところに連れて行ってくれると、昔付き合ってた女からきいて、フラれる度に開き直って買ってしまう。

「自分を満たすスキル高いから、寂しくないんですかね、先輩って」

「寂しいぞ。そして、お前スーツに汁とんでるぞ」

渋井は慌てておしぼりで汁をふき、のみこむようにつけ麺を平らげた。なぜか、おれが奢った。とりあえず、今日は仕事終わり飲みに行くことになりそうだ。ひりひりしたまま麻痺した口の中に水を流し込み、席を立った。

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