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『fight the night/決戦の夜』

大阪で「YOGA STUDIO BASE」というヨガスタジオを運営しながら、ヨガの指導をしてきた。

2015年に1店舗目をオープンし、2018年に2店舗にオープンと、
大変でありながらも、充実していて、自分のすべてをこのヨガスタジオに注いできた。
まだ寒さの残る春に、このコロナが来るまでは…。

2020年9月15日(火)、20時30分。
東京の東日本橋にある日本のヨガシーンを牽引し続けるスタジオである「Studio+Lotus8」で
僕のレギュラークラスはスタートした。リアルクラスを指導するのは6カ月ぶり。
自分の大阪のスタジオでもまだ指導していない。
なぜ東京のスタジオが、僕がヨガ指導者としてのリスタートの場所になったかを、
今の自分の心の状態を記すように、ここに書いておきたい。

僕は、人というものは多くの人格(ピース)が束になって、一人の人間として形成されていると捉えている。
親がいれば自分は子という人格を持ち、子がいれば自分は父という人格になる。
妻がいれば自分は夫という人格に。
つき合う人の数だけ、自分の人格は増えていく。
それは不変的ではなく流動的に変化するもの。
僕がヨガの指導を、生徒に対して行うことで、
先生と生徒という関係が生まれ、そして自分はヨガの先生であるという人格が自然と形成される。
しかし、そのさまざまな人格の束の一番下(源)には、本当の自分というものが存在する。
ただ、多くの人格が生まれ、そこに責任が生じたり、そこにエゴ(思い)が生じることでこの本来の自分は見えにくくなる。

3月、世界中がコロナウィルスの感染拡大により、恐怖に陥った時、
僕は自身のスタジオを、守らなければならないという強い使命感を持ち、
スタジオオーナーという人格で自分がいっぱいになった。
しかし、その人格の頑張りも虚しく、日本中のヨガスタジオが一時的にクローズする中で、僕のスタジオも例外なく、閉じることに。
そしてヨガ指導者としてヨガを伝える時間と場所がなくなると、
自分の中にあるヨガの先生という人格が、その存在意義を失い、
その人格が、自分の中で日に日に薄れていった。

「あーヨガを教えるのを辞めようかな」

そんな心の囁きまで聞こえてくるようになってきた時、
僕の先生としての人格に、「安心と安全」を提供してくれたのが
「Studio+Lotus8」のオンラインクラスだった。
それはまるで僕の先生としての人格を、零れ落ちないようにするセーフティネットのよう。

人生初のオンラインクラスで、カメラの向こう側に、僕のヨガを必要としてくれる人がたくさんいてくれることを感じ取ることができた。

「まだ、ヨガを教えていいんだよ」

そんな風に言われた気分になった。枯渇した僕の先生人格は、潤いを取り戻してきた。
動きにくくなった歯車のキシミを取る潤滑油のように、磨耗した心に沁みていった。
救われたよ。ありがとう。
その感謝の気持ちがとても強く僕の中であったから、
リアルクラスのリスタート場所は、「Studio+Lotus8」と決めた。

その場所での初めてのクラス前、数時間前にスタジオに入った。
誰もいない「Studio+Lotus8」というこのヨガの空間は、まるで神社に入った時のような空気感だ。

コロナ禍でたくさんのスタジオがクローズしていく中、この場所を守ってくれている人がいる。
個人的に付き合いもあるヨガの専門誌「Yogini」の編集長である橋村さん。
このスタジオのオーナーでもある。
彼は本当にヨガが好きで熱い男。

僕もスタジオオーナーとして気持ちがとてもわかる。
スタジオをやめようかと、何度思っただろうか…。
自分の気持ちを押し殺して、何度もスタジオを守ろうとしてきた。きっと彼も同じだろう。
僕の中のスタジオオーナーという人格が、このスタジオへの僕の気持ちを強くさせた。
同時に、この場所で生徒にヨガを指導するという僕のヨガの先生という人格も、大きくなっていく。

いつもなら、そのオーナーとしての人格、そして先生としての人格。
その二つが大きくなり、それ以外のものは見えなくなっていたかもしれない。
でも、その日の僕は違った。
このスタジオを、僕自身のありのままでいさせてもらえる場所なのかもしれないと感じたのだ。
そんな場所を守ってくれてありがとうと、
このスタジオに関わってきてくれたすべての人に感謝した。

改めて思う。

生徒がいなければ先生にはなれない。
先生がいなければ生徒にはなれない。
そして、スタジオがなければ
その2つが交わることはなく、感動は生まれない。
三つの存在があって、初めてその場に「ヨガ」というエネルギーや状態を
落とす(作り出す)ことができる。

それぞれが持つエネルギーは小さくとも、とても美しい存在。
その美しさが空間で交わることで、
言葉では表現出来ない何かが生まれると僕は信じている。
それこそがリアルなヨガクラスの醍醐味だと。
この日のヨガクラスでも、その場所に僕と生徒、
そして空間の力で「ヨガ」を作り出し、
自分も感動した。
でもいつも、振り返ってもクラスのことは何にも覚えてないや。

クラスを終えた後、感極まって涙を流し、開いた瞳に映った目の前の生徒さん達が、
自分のヨガクラスと、その自分の涙から、何を感じ取ったのか、少し不安になった。
クラスが終わってしばらく経っても、生徒さん達はみんな、ゆっくりとこの世界に戻ってきているような感じで、いい意味でぼっーとしていたけど、何を感じていたのかな?

リスタートに選んだ「Studio+Lotus8」での、6カ月ぶりのリアルクラスは
とても不安だったし緊張もした。
誰にも言わなかったが、やっぱりやめようかと、伝えようともした自分もいた。
でも、一歩踏み出してよかった。

『fight the night/決戦の夜』
自分と向き合い、戦い、苦しんで、傷ついても、こうして日々成長していくのだろう。

「自分探し」。これが僕の今のテーマだ。

今の感覚としては、「生まれ変われた」、「元に戻れた」。
矛盾する言葉だけど、どちらもが同時に起きた特別な日になった。

リスタートのクラスを終え、新しい僕になれた気がした僕は、
クラスを終え、また神社のような静寂さを取り戻したスタジオを後にした。

P.S Studio+Lotus8のクラスに来てくれた皆さん、そしてスタッフの皆さんもありがとう。オンラインに来てくれてた人は、直接会えて嬉しかったよ。引き続き、よろしくお願いします。


2020,Sep 17th
西川順喜(NAOKI)

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