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『宝石の国』も連載再開したし、ジュエリーについて考える

 皆様初めまして。
 好きな鉱物は方解石、狐ノマドです。

 皆様は『宝石の国』という作品をご覧になっていますでしょうか?

宝石の国第一巻
センター緑髪がフォスフォフィライト、かわいい
あらすじ
「この星には、かつて“にんげん”という動物がいたという」――今から遠い未来、宝石のカラダを持つ28人は、彼らを装飾品にしようと襲い掛かる月人に備えるべく、戦闘や医療などそれぞれの持ち場についていた。月人と戦うことを望みながら、何も役割を与えられていなかったフォスは、宝石たちを束ねる金剛先生から博物誌を編むように頼まれる――。
市川春子『宝石の国』第一話「フォスフォフィライト」コミックデイズより引用

 6月末ごろに無料公開もされていたので読んでいること前提で話してしまいますが


良いよね

しんどくて



 私はコミックス派なので休載を経て最新話がどうなっているか、12巻の発売を一万年待っています。

 漫画も素晴らしいですが、実際の宝石も私たちを魅了してくれます。興味のない人からすればただの石ころなんでしょうが。

 ラグジュアリージュエラー『TASAKI』とのコラボの際には、実際にフォスフォフィライトがコラボ最高額の324万円で販売されていました。

 発売初日に売れた事実に驚きますが。


 宝飾品、ジュエリーの歴史は古く、まさに人類の歴史とともにあったといえます。
 古代エジプトのツタンカーメンがよい例でしょう。黄金のマスクに数々の宝飾品、遺跡において宝飾品が出ないということはほとんどないといえます。

 では宝飾の始まりは権威の象徴としてだったのでしょうか?

宝飾品の持つ意味の遍歴

 山口遼(2016)は『ジュエリーの世界史』のなかで、宝飾について

「未知なるものへの恐れに対しての”御守り”としての意味」
山口遼(2016)『ジュエリーの世界史』pp.133より引用

そして

自己異化(自分を他人と区別したいという欲望)と自己同一化(自分を一つの社会的グループの一員として認識したいという望み)」
山口遼(2016)『ジュエリーの世界史』pp.133より引用

によって、宝飾という人間の営みが始まったと解いています。

 古代の宝飾品に見られる猛獣の牙や爪を用いたアクセサリーは、その猛獣を倒したという証明とともに、その力を宿すものとしての意味をもち、我が身を脅威から跳ね除けようとする御守りとしての要素がみてとれます。

 また、同じ宝飾品を身につける、化粧や入れ墨を施すことは、現在でいう社章やスクールリングのように組織の一員であることを示す自己同一化を表し、逆にユニークな宝飾や高価な宝石を身につけることで他者との識別をはかる自己異化といえるでしょう。


 宝石や貴金属、宝飾品が富や権力の誇示として利用されるようになったのは、ルネッサンス期以降といわれています。
 個人の装身から君主、権力者としての一族の権威を示すものとして、一族歴代の宝飾品という考えが生まれてきたためです。
 クラウン・ジュエルという考えはルネッサンス期ごろに始まったとされ、それまでの宗教的なものから、権力の象徴としての宝飾品としての意味合いが強くなった時代と言えます。

イギリスの大英帝国王冠。クラウン・ジュエルのひとつ。画像は『産経新聞』より


古くから関わりのある宝石たち

 ダイヤモンドは、ローマ時代、プリニウスの『博物誌』のなかで、硬いもの、無敵を意味する「アダマス、adamas」の一種として取り上げられ、希少性と神秘性から呪術的な力を持っていました。
 キリスト教の時代になると、その呪術的価値は否定され、カットの方法が確立されるまでの十数世紀の間、宝石としてのダイヤモンドの地位は低いものとなりました。
 1700年以降、ブリリアント・カットの原型が創作されるようになると、宝石の持つ「色の美しさ」ではなく「光を反射してきらめく」ことで宝石の王様となりました。

ブリリアントカット、7つのファセット(研磨面)によりきらめきを放つ。画像は『BRIDGE ANTWERP』より

 ダイヤモンドに対する時代の流れによる評価の移ろいを見ると、御守りとしての価値から、煌びやかに飾る権力としての価値の移り変わりを感じることができます。

 最も硬い鉱物であるダイヤモンドを加工するには同じ硬度であるダイヤモンドを使う必要があることを考えると、加工技術の発展と向上によって価値が変わっていくことは想像がつきます。


ダイヤモンド、互いにぶつかり合えばもっと磨き合い輝くことができたのかな。


 翡翠は古くから呪術的な用途で用いられてきた鉱物です。
 勾玉などがその最たる例でしょう。

 ニュージーランドの先住民、マオリ族はヘイティキと呼ばれる一種のお守りを身に着け、代々伝えられることで所有者のマナを取り込み魔力を高めると信じられてきました。

ヘイティキ、目は真珠母貝や蝋を埋め込んで作られる。画像は『福本修の宝石・鉱物小辞典』より引用


 また、古代中国では死体を腐らせない効果があると信じられ、ともに埋葬されていました。

 古代中国といえば、鉱物である辰砂が不老不死の薬として重宝されていて、始皇帝すらも求めていたなんて話がありますね。正体は硫化水銀なので逆に死んでしまう危険があるのですが。
 辰砂もまた「丹」として『魏志倭人伝』に記述される、古くから関わりのある鉱物です。


 実際に不老不死になったらどうなんですかね。未来永劫、祈るまでさまよい続けるんですかね。

 儒教・道教的には不老不死の仙人になるのが理想で、仏教的には輪廻転生を抜けて解脱することが理想でしょうから、価値観の相違がありそうですね?

シンシャとひとつになれるなら悪くないか。

ねぇ。


 古くから関わりがあるというと、真珠もまた歴史のあるジュエリーの一つです。
 クレオパトラがワインビネガーに溶かして飲んだという話が有名ですが、『新約聖書』、『博物誌』、ユダヤの聖典『タルムード』、インドの『ラーマーヤナ』、ギリシャの『オデュッセイア』、また『魏志倭人伝』にも登場します。

 「真珠は貝の血でできる」、貝塚などをみるに古くから人類は貝を食べているわけですから、そのなかから見つけたとしても不思議はないでしょう。宗教美術品であるイコンをカバーするためのオクラド(リザ)の装飾として用いられたり、漢方薬として用いられたりと、洋の東西を問わず人々を引き付けました。

 こうして見てみると、着飾るだけがジュエリーの役割ではなかった、ということですね。

終わりに

 宝石、ひいては宝飾品のもつ意味について、御守りといった呪術的なものから、権力の象徴としての役割を持つようになっていったことを話してきました。

 今でこそ動く財産であったり、所謂お金持ちの象徴というイメージが強いですが、硬さや色、希少性といった宝石自体が持つ特徴から、見出され込められてきた神秘性や魔力の歴史に馳せるのも悪くないかもしれませんね。


 話は変わりますが、『宝石の国』は仏教がモチーフにあるといわれています。

 阿弥陀如来の梵名である「アミターバ」と「アミターユス」はそれぞれ「無限の光を持つもの」と「無限の寿命を持つもの」という意味があります。

 長い年月をかけ結晶化される輝かしい宝石たちに通ずるところがあるのではないでしょうか。


私もなにか身に着けたくなりました。
深海の貝でも食べれば、体内に真珠でもできるかも、なんて。



「もっとちゃんと調べなさい」


引用・参考文献
市川春子(2013-)『宝石の国』講談社
市川春子(2009)『虫と歌 市川春子作品集』講談社
市川春子(2011)『25時のバカンス 市川春子作品集Ⅱ』講談社
松原聰(2013)『美しい鉱物』学研
山口遼(2016)『ジュエリーの世界史』新潮文庫

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