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島という冒険⑴未知のワクワク

「誕生日には山に登る」
そう決めて、凍てつく朝に始発に乗った。小田のばあちゃんがよく行くお寺の駅まで行って、漠然と家の方向に向かって、山を目指した。
スマホもない時代、地図さえも持たず、とにかく山頂を目指す。最後の方はケモノ道さえない薮の中をかき分けながら登った。

頂上に着いて、愕然とした。
自分が予想していた風景がそこにはなく、下に降りて、見つけたバス停の地名が読めなかった。

「ここは何処?」
思わず声を上げて笑う。
「知らないとこに来ちゃったよ!」
「どうしよう?家に帰れるんじゃろか?」
ポケットには所持金千円。
 
読めなかった地名は「伊陸」。

結局、バスで柳井まで出られることがわかり、所持金で行けるところまで帰って、後は歩いたと記憶する。

あの日の衝撃、そして未知との遭遇の愉快さを一人で味わった経験は、その後の私の人生の選択の仕方に、少なからず影響した。

去年、ランニング仲間のマリリンから、瀬戸内海の島にある古民家再生のプロジェクトを相談された時、あの時登った山の向こうと同じ風景を期待した。「全然見えん」「面白そう」

手伝う内容は全く問題ないけど、瀬戸内海の島に住むという経験は新しい。

コロナ前に、ヨーロッパへの移住を予定していたのが保留され、まだ空き家になってる実家のことも、兄弟のこともコロナ禍で気になっていただけに、この流れが必然的に訪れたチャンスのような気がした。

「で、どこの島?」

マリリンから返って来た答えに、ワクワクが、ドキッと一瞬止まった。

運命ってこういうことを言うのかもしれない。

⑵へつづく






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