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鯛の活き締めとパスカルのアコーデオン

さなえシェフが活き締めの鯛を丸ごとフリッターに突っ込むと、高温の油が細かい泡で魚を包みこんだ。こんなワイルドな調理をするのには分けがある。揚げ物用の新しい器械のテストのためだ。皿に上げると、染み出た中身の汁が紙の上に広がる。ホクホクな白身の味で舌鼓。合わせたローゼワインが杯を重ねるにつれてパスカルシェフが思い出のアコーデオンを引っ張り出してきた。
シャンソンを弾きながら、好きだった亡き父の思い出が脳裏をかすめるのか、彼の目は宙を飛んでいる。彼にこんな隠し芸があったなんて!さなえシェフも合わせて踊り出した。夏のパリは10時を過ぎてようやく、西に沈む太陽の残照が薄れゆっくりと暮れだした。

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