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天才

昨日、目黒美術館へ行ってきた。「フジタが目黒にやって来た」というタイトルがつけられた展示で、その名の通り藤田嗣治の作品が数多く展示されていて見所満載だった。

目黒美術館を訪れるのは今回が2回目で、前回の展示を訪れた際にアンケートに答えたら次の展示(つまり今回)のチケットが当たった。こういうのは地味に嬉しい。

私が1番心躍ったのは、(そしてたぶん多くの来場者が同じだと思うのだが)なんといっても藤田嗣治の書簡だ。お見事、としか言いようのないオシャレなイラストとチャーミングな文面で、とても個人宛の手紙とは思えないクオリティ。しかし当然のことながら、当時の本人は世に発表する作品として手掛けているわけではなくて、ラフにササッと描いたまでだ。だからこそ、彼の否定しようのない豊かな才能がこれでもかというくらいに溢れている。「ああ…才能ってこういうものか」とまざまざと見せつけられたように感じた。藤田嗣治に限った話ではないが、毎回美術館で感心するのは立派な額縁に入れられた巨大な作品群よりも、作者が出先で描いたスケッチやデッサンようなものだったりする。天才が天才であることの証明は、その精魂込められた計算し尽くされた仕事よりも、むしろ片手間で行われた雑事によって為されると思う。

今回の藤田嗣治の書簡では、作者自身の挙動を俯瞰し、それを見事にデフォルメして描き起こしていた。いわば、日常の出来事をドローンの目線で描いているのだ。


「今日は鍋を買って、穴を開けた。これでお米を蒸せばいつでも温かいごはんが食べられる」と、鍋のイラスト付きで記したあとに、ハトが窓際に並んでいるイラストを描き添えて「フジタは米を食うようになったらパンをくれなくなった」とハト目線での不満を付け足す。茶目っ気たっぷりで、思わずニヤニヤしてしまう。

ほかにも木下晋という人の鉛筆画も目をひいた。とにかく大きな老婆の顔がバーン、と展示されていて自然と視線が誘導される。シワやたるみがこれでもか、というくらい丹念に、拡大されて描きこまれている。本来美しいものではないはずなのだが、目を離せない。来るべき未来の予習をするかのように見入ってしまう。

武内鶴之助のパステル画や都鳥英樹の油絵もよかったし、UNIのロゴを考えたのが、秋岡芳夫という人であるということもはじめて知ることができ、とても面白かった。


武内鶴之助 冬の小川



目黒川沿いの紅葉

ちなみにチケットは2枚送られてきたので、もう1枚のほうは入口を出たところで1番はじめに出会った青年に貰っていただいた。

この展示、とっても面白かったので近くの人はぜひ行ってみてはどうだろうか。


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