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土の分類比較

土の分類方法について調べてみますと、未だ確立されていないものであるということが分かりました。そこで異なる二つの研究機関が発表している最新のレポートを拝読し、違いを探しました。

日本ペドロジー協会の「日本土壌分類体系」と、農業環境技術研究所の「包括的土壌分類第1次試案」の土壌分類を比較してみます。

体系比較

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」
農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

定義比較

<ほとんど同じもの>
10大群のうち造成土、有機質土、ポドゾル、赤黄色土、停滞水成土、未熟土の6大群については、さらに細かい群、亜群の分類構成も共通しています。まずはこの大群定義を比較し、大まかな構成を確かめます。

造成土

「人工物質」による埋め立て、また大規模な客土、造成に伴う「異質土壌物質」の盛土などのため、自然状態の土壌と著しく異なる断面形態をもつに至った土壌。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」
農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」改

有機質土

湿生植物の遺体が、過湿のため分解を免れ厚く堆積した土壌を中心概念とする。主として沖積地や海岸砂丘の後背湿地、低層湿原、谷地や高山などの湿地に分布する。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」改
農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

ポドゾル

漂白した層と腐植または鉄が集積した層の層序をもつ土壌である。自然状態では、漂白層の上に粗腐植層が存在しているのが一般的である。火山灰に由来する「黒ボク特徴」または「未熟黒ボク特徴」を持つ土壌はポドゾル大群に含めない。北海道・東北・中部地方の山地に主として分布するが、一部は、海岸砂丘地にも発達している。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」

「漂白層/腐植または鉄集積層の層序をもつ土壌」である。自然状態では、漂白層の上に粗腐植層が存在するのが普通である。北海道、東北、中部地方の山地に主として分布するが、一部、海岸砂丘地にも発達している。

農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

赤黄色土

有機物の蓄積が少なく、塩基飽和度が低く、風化の進んだ赤色または黄色の土壌である。本土壌は西南日本、南西諸島に広く分布する。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」

本土壌は、洪積台地、丘陵・低山地帯に分布する。「赤黄色特徴」を示す「粘土集積層」または「風化変質層」をもち、岩盤が30cm以内に現れない土壌である。本土壌は長年にわたる風化作用および土壌生成作用を受けて おり、表層からの粘土の移動集積や塩基の溶脱が生じ、 強酸性を呈することが多い。

農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

停滞水成土

年間を通じてあるいは年間のある期間、停滞水または地下水による影響を受け、断面内に「グライ特徴」、「表面水湿性特徴」または「地下水湿性特徴」を示す層をもつ台地、丘陵地、山地の土壌である。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」
農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

未熟土

土壌断面内で層位の発達が認められないか、あるいは非常に弱い土壌である。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」

本土壌は層位の発達が認められないか、あるいは非常に弱く、「富塩基暗色表層」以外の特徴層位をもたない。

農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」


<違いがあるもの>
黒ボク土と褐色森林土については群構成に違いが見られますが、大群定義は共通しています。

黒ボク土

主として母材が火山灰に由来し、リン酸吸収係数が高く、容積重が小さく、軽しょうな土壌である。黒ボク土を特徴づけるものはアロフェン、Al/Fe-腐植複合体およびフェリハイドライトのような非晶質物質と準晶質粘土のイモゴライトである。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」
農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」抜粋

褐色森林土

「黒ボク特徴」および「赤黄色特徴」を持たない、褐色の次表層位をもつ土壌である。本土壌は山地、丘陵地に広く分布するほか、北海道・東北地方では洪積台地にも分布する。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」

 本土壌は山地、丘陵地に広く分布するほか、北海道・東北地方では洪積台地にも分布する。「黒ボク特徴」および「赤黄色特徴」をもたず、黄褐色の「風化変質層」または「粘土集積層」をもち、岩盤が30cm以内に現れない土壌である。

農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」


「日本土壌分類体系」では沖積土、「包括的土壌分類第1次試案」では低地土が登場しますが、これら2つの定義はほとんど同一でした。したがって同じ土を指すと考えて差し支えないでしょう。

沖積土(日本土壌分類体系)

現世の河成、海成、湖沼成沖積低地の土壌である。台地の周辺部では台地土壌の上を「沖積堆積物」が覆っていることがあり、また無機質の「沖積堆積物」と「泥炭物質」とが重なりを示すこともある。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」

低地土(包括的土壌分類第1次試案)

現世の河成、海成、湖沼成沖積低地の土壌である。台地の周辺部では台地土壌の上に「沖積堆積物」が覆っていることがあり、また無機質の「沖積堆積物」と「泥炭物質」とが重なり合うこともある。

農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

「日本土壌分類体系」で登場する富塩基土と「包括的土壌分類第1次試案」で登場する暗赤色土について、それぞれの定義を確認します。

富塩基土(日本土壌分類体系)

「風化変質層」または「粘土集積層」をもち、下層土の塩基飽和度が 50%以上の土壌である。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」

暗赤色土(包括的土壌分類第1次試案)

暗赤色の次表層をもつか、石灰岩あるいは「石灰質堆積物」に由来する塩基性の土壌である。ここで暗赤色とは色相が5YRかそれより赤く、明度≦3かつ3≦彩度≦ 6および明度/彩度4/3、4/4の土色をさす。主に山地の一部、丘陵地や石灰岩台地に分布が認められる。

農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」

この分類について「日本土壌分類体系」を読み込んでみると、研究者の方々のある意図が記述されていました。

ペド 2 次案では、石灰岩や石灰質堆積物、あるいは超塩基性岩(かんらん岩、蛇紋岩)に由来し、塩基飽和度が高い土壌を「暗赤色土大群」としていたが、母材を限定しているため、安山岩などを母材と する塩基含量が高く暗赤色を呈する土壌が、塩基飽和度が低いという中心概念をもつ赤黄色土大群に分類される問題があった。そこで、母材の限定をはずし、塩基飽和度の高い土壌を、富塩基土大群として 位置づけ、「マグネシウム型富塩基土」および「カルシウム型富塩基土」の 2 土壌群を設定した。(以下省略)

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」p47

土の分類に関する2つの分類について、これらがいつ発表されたものなのか確かめます。「日本土壌分類体系」は2017年4月1日、「包括的土壌分類第1次試案」は2011年3月でした。

「日本土壌分類体系」の研究背景について記述がありました。

(前略)その後、農業環境技術研究所は、第二次案を取り込む形で「包括的土壌分類 第1次試案」を 2011年に発表している。そこで、日本ペドロジー学会は、この「包括1次試案」で解決できなかった課題に集中的に取り組むべく、第五次土壌分類・命名委員会を組織し『日本土壌分類体 系』の策定を目指してきた。

日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」i

複数の研究グループが「土の分類」について研究を重ねてきたことがうかがえます。将来、農業環境技術研究所から第2次試案が発表されるかもしれません。

参考文献
日本ペドロジー学会「日本土壌分類体系」
農業環境技術研究所「包括的土壌分類第1次試案」


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