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軒下書斎(コモリ部屋)

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家族との向き合い方とか、心を掘り下げた結果とか。悶々と考えたことを書斎に収めました。
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あの人の『ありがとう』は切れ味の悪いナイフ

どういう訳か、 ある友人に『ありがとう』と言われると 釈然としない気持ちになった。 礼を言われて気落ちするというのは珍しい。 「君に礼を言われる筋合いはない!」 なんて台詞をよく耳にするが、 私とその友人に限ってその台詞は当てはまらない。 礼を言われる筋合いのある、旧友だからだ。 その友人をPさんとしよう。 付き合いも長くなったあるとき、 Pさんが持つ二面性に気づいた。 『誠実』と『不誠実』。 Pさんの中に内在するギャップだ。 というより、 私から見えるPさんのギャッ

1997年エヴァに取り込まれた中3の夏。

2021年。シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇が公開され、旧アニメ版の放送から二十五年の歳月を経て物語に終止符が打たれた。 エヴァの最終話(25話、26話)は、旧アニメ版、旧劇版、シンエヴァと存在するわけだが、 私の成長過程でいつも傍にいたのは、なんといっても旧劇版だ。 ――――― 壊滅的に破壊され水没する街。 朽ち果てた電柱から避雷器が外れ落ち、 空虚な音をたてて静かに水紋が広がる。 物語のはじめから世の終末を感じさせる退廃的な世界に、 中学三年の夏、私は沈み込んでいっ

ただいまとドアを開ける前の憂鬱。

ごはん、すごくおいしいね。 切り方も工夫してくれたんだ。 食感がいいよ。 食器洗いは私がするね。 ありがとう。 洗濯もの全部洗ってくれたんだ。 畳むのは私が。 ありがとう。 床も拭き掃除してくれたんだ。 気持ちいいよ。 ありがとう。 あれ、お風呂場もピカピカ。 鏡の水垢、気になってたんだよね。 ありがとう。 今日もごはん、すごくおいしいね。 隠し味?わかった、味噌だ! ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。 ・・・・・・。 もういいよ。 お願いだから、もう

好きな映画が「ベタだ」と笑われて

大学生の時、 映画は、”ショーシャンクの空に”が一番好きだと言うと、 「うわ~、超ベタベタだなー 」 と笑われて、恥ずかしい気持ちになった。 ――――――― あなたの好きな〇〇を聞かれたとき、 定番を外して、他の人が知らないようなセンスを見せつけたくなる。 10代20代にありがちな、 そういう自意識の渦中に私もいた。 好きな音楽は?と聞かれたら、 当時まだマイナーだった星野源とか、 デビューしたばかりのラッドが好きだと答えていた。 音楽通をにおわせて、センスがあると

どうか死んだあとは楽になっていて欲しい

2016年春、とある土曜日。 桜が美しく咲き誇っていたこの日、わたしはタレちゃん(現在の伴侶)にお花見の約束をすっぽかされ、新宿シネマカリテで映画を観ていた。 前日の金曜からタレちゃんと連絡がとれていなかった。 昼に送ったLINEに既読はついている。 だが夜になっても返事は来なかった。 様子がきになるが、仕事で疲れて寝てしまったのかもしれない。 お花見の確認は当日朝でもいいかと、電話はせずに眠った。 当日。朝になっても返事は来なかった。 携帯の電源は入っている。 午前中、