夢帰行14
遙の病室2
遙の病室に入る廊下の扉が、仁志たちの後ろで開いた。
清美の母親が、同じように滅菌服に身を包み、病室の前までやってきた。
仁志と幸江を認めると驚いた様子で挨拶をした。
「わざわざありがとうございます。遙も喜ぶと思います。仁志さんのお身体はよろしいんですか」
「あ、はいお陰様で・・・」
仁志も一年半ぶりに会う清美の母の姿に驚いていた。
清美の母は、遙を溺愛していた。
発病した際には、清美と仁志が呆然とする中、ひとり号泣し、遙を驚かせた人である。
この人のやつれ方も尋常ではない。
髪もぼさぼさで頬がこけ、背中が丸まって見える。
肌艶も良くないため、まだ50代前半の若い祖母だったはずが、すっかりお婆さんに見えてしまっている。
人方ならないほど心を痛めているのが窺えた。
清美の母は、幸江と小声で挨拶したり、病気の話をしていたがそれが済むと清美に向かって言った。
「いつ寝たの」
「30分くらい前かな」
「どう?寝られるみたい?」
「どうかな、昨日よりはましだと思う」
「仁志さん来てるならゆっくり行ってきていいわよ」
「うん、まあゆっくりは出来ないけど・・・」
清美は、黙って立ちすくんだままの仁志に顔を向けて言った。
「お母さんに看てもらって、家でお風呂に入ってくる日なの」
「一日おきにお母さんに来てもらって、看てもらっているの。その間にお風呂に入って、食事して、あと遙に頼まれる買い物してくるの。玩具とか、塗り絵とか・・・」
「そうなんだ」
「でもここしばらくは、遊ぶこともできないから本読んであげるくらい」
確かに今の様子では、起き上がって遊ぶことなどできないのだろう。
「じゃあ一緒に出ましょうか」
清美は病室を出ようと、仁志たちを促し、先に扉を出て行った。
仁志はその後に続きながらも、振り返り遙の様子をもう一度みた。
遙は小さなお腹を膨らませたり縮めたりしながら、大人しく寝ている。
表情は伺い知れないが、ビニールカーテンに囲まれたベットで一人ぼっちの遙のその姿を目に止めておきたいと思った。
幸江は、清美の母に丁寧に何度も何度も頭を下げ、まるでお詫びをしているようだった。
幸江にすれば、遙が発病した後に清美と離婚するなど、重病の子供を見捨ててきたのと変わりないと思っている。
病気が治ればまだ許せるが、こうまで悪化してしまうと、因果関係はなくても、その責任を感じずにはいられない。
負い目を感じるあまり、清美の母親へ何度も頭を下げていたのだった。
そして、清美に続いて仁志も幸江も病室を後にした。
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