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ヘビ女房

今日たまたまある人に思い出させてもらった個人的に非常に惹かれる昔話です。
もっとも、タイトルだけでももう絶対受け付けないという人もいるかもしれません。

いろいろバリエーションがある話ですが、今回は次のサイトがパッと見つかったのでこちらから紹介します。

むかしむかし、炭焼きがしごとの男がいました。
 この男、心はやさしいのですが、よめさんももらえぬほどの貧乏(びんぼう)でした。

http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/12/08.htm

「自我の弱い、甘えた印象の」主人公が登場しました。おそらくこのお話の最後まで周囲に振り回されっぱなしの予感があります。

「おっ、よく見かけるヘビだな。ああっ、かまに近づいちゃ、あぶないじゃないか。ほれ、あっちいけや」
 男はヘビを、外の草むらに出してやりました。
 その夜、男の家に、美しいむすめがたずねてきました。

http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/12/08.htm

日本人好みの、夕鶴に代表される「恩返し型押しかけ女房」です。
我の弱い男は、自分では稼ぎを取ってこられず、女性に言い寄る強さもないので、子孫を残していくにはこの形がある種の理想型なのです。

「こんなのはお話じゃないか」と思われるなら、こういう「お話」もあります。

私のマンションのドアホンを鳴らしてきたのです。自宅に案内したことはそれまでありませんでしたので、名刺の住所を見てやってきたのだと思います。 雪が降っていたので、私は彼女を部屋に導きました。それであんなことや、こんなことになってしまいました。それはそうでしょう。この状況で自分より一回り以上も若い女性が部屋にやってきたら、誰でもとりあえずそうなってしまうでしょう!

ご本人が話を作っているのでなければ、これは実話のはずです。我ながらなんと無意味な文章表現!

ヘビの女房をもらった「心やさしい男」も竹熊健太郎さんも、このお話からして「前途多難」は容易に想像がつきます。

現代のような個人主義社会でサバイブするには、とても心がやさしく受動的です。押しかけられたら言いなりです。でも日本人はこういう心根を愛するものなのです。

やがて、よめさんのおなかに子どもができました。
 いよいよ生まれるというとき、よめさんは男にいいました。
「いまから赤んぼうを生みますが、わたしがよぶまでは、けっして部屋をのぞかないでください」
「わかった。やくそくする」
 だけど、赤んぼうの泣き声が聞こえると、男は思わず、戸のすきまから中をのぞいてしまいました。

http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/12/08.htm

ここも夕鶴と変わらず、男は「自分の意志」というものがもてません。「やくそくしろ」と言われれば唯々諾々とそうするのに、その「やくそく」を守ることができないのです。だから「あっ」と驚くものを見なくてはならなくなります。

「あれほど、見るなとたのんだのに・・・。わたしは炭焼きがまの近くの池にすんでいたヘビです。あなたが好きでよめさんになりましたが、正体を見られたからには、もう、いっしょにはいられません。赤んぼうが乳をほしがったら、この玉をしゃぶらせてください。わたしは山の池にもどります」

http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/12/08.htm

赤ん坊は母親がなくても「玉」をしゃぶってすくすくと育ちます。男は相変わらず受動的で、「不思議なこともあるものだ」などと呑気に構えているばかりです。

そのうちに「玉」が噂になって、けっきょく「とのさま」に召し上げられてしまうのです。赤ん坊は泣き、男もとほうにくれ、むかしの「よめさん」に泣きつきます。

「ぼうのかあちゃんよう。どうか乳をやってくれ。あの玉は殿さまにとられちまったんだ」
 すると、よめさんがあらわれ、
「この子のなくのがいちばんせつない。・・・さあ、これをしゃぶらせてくだされ」
と、いい、またひとつ玉をくれると、スーッときえました。

http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/12/08.htm

全編これ「甘え」と言っていいほど頼り切りです。甘えが充満しています。

しかし意識下のエネルギーにも限度はあります。「とのさま」はいわゆる「個人的自我」の象徴でしょうが、こういった「無意識のエネルギーを取ってばかり」の暴君は、けっきょく仕事に行き詰まったとき、とめどもなく退行する結末に突っ込みがちです。

「ああ、いとしいあなたやこの子をなかせる者は、ゆるさない。いまから仕返しをします。さあはやく、もっと高いところへ行ってください。・・・この子のことは、たのみましたよ」
 そういうと、よめさんは見る間に大蛇のすがたになって、ザブン! と池にとびこみました。
 池の水が山のようにふくれあがり、まわりにあふれだします。

http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/12/08.htm