英語800ページの読破に向けて
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「読破」といいつつ、最初から読むことをサッパリあきらめていたところから、すべては始まった。
目の前に、800ページの心理学の教科書があった。ぜんぶ日本語でもつらいのに、ぜんぶ英語だ。
これを4ヶ月で読み上げたあげくに、6回のテストを受けて、単位を取得しなければならない。
まずは、単純に、総ページ数を日付で割る。800÷100=8。これが概算である。
1ページの英語の教科書を読むのにかかる時間を出してみる。
1ページ60分。8ページなら、8時間。絶望的な数字である。
勉強も何もなく、とにかくただ教科書を読むだけで、1日の1/3は終わるのだ。寝ても覚めても朝から晩まで英語の教科書を読むだけだ。しかもこれで取得できる単位は、わずか1クラスの4単位。絶望的である。
というより、これではダメである。副教材もあれば、英文でレポートも出さねばならない。8時間を「読むだけ」に費やしては、他のことは一切できなくなってしまう。
そこで私は「教科書の英文をスキャン」して、それを「英日翻訳」にかけることにしたのである。
2001年当時のDellのパソコンでは、この作業にもそこそこの時間がかかった。
しかし、まさか1ページに1時間もかかるわけがない。実際、慣れてくると、8ページの英文を1時間で、PCは「翻訳」してくれた。
それを読んでみた。
結論から言うと、このやり方はダメだった。
何か心理学っぽいことの書いてある日本語の文章なのだが、読んでもよく意味が伝わってこない。
当時の自動翻訳の技術に問題があるといえばそれまでだが、付け加えていうと、当時の私の心理学の知識の乏しさにも問題があった。
いまなら、たとえあのレベルの日本文でも、なんとなくいわんとすることの意味はわかる。なぜなら、書いてあることの内容を、知っているからだ。
しかし当時の私は、そこに書いてあることをほぼ、生まれて初めて読むようなものだった。
それをあのつたない奇妙な日本語に直されているだけでは、わかったようわからないような微妙な「味わいの文章」としか理解できない。
せっかくのフラットベットスキャナとすごいアイディアだと思ったのに、希望が打ち砕かれて呆然とした私は、大学の庭を散歩することにした。アメリカの大学は、やっぱり無駄に美しい。そこら辺に見たこともない動物が歩き回っている。
800÷100=8。
どうしたってムリな気がした。時間管理とかいう話ではない。まずこの膨大な8時間を、どうやって手に入れればいいのかが、よくわからない。
私は当時、ELというクラスを必修でとらなければいけなかった。留学生のための「英語教室」なのである。
韓国人とか台湾人とかタイ人とか、不思議なともだちが増えていくのは悪くないのだが、8時に始まり15時までかかるELが終わってから、8時間を足すとそれだけで23時になる。この間に食事とお風呂と家事を曲がりなりにもやるとなると、真夜中を過ぎる。
まるで時間の金策に追われているような感覚だった。どうやりくりしたらいいのか? けれどこんなふうにトリを眺めている間にも貴重な時間が過ぎていき、その焦燥感でむしろ何もできなくなっていく。