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チャンピオンの友達。佐々木 大蔵。

 ここで、ちょっとチェンナイの話からは逸れる。しかし僕が、過酷なチェンナイ生活を続けるに当たって、とても大切なモチベーションになった出来事があるので紹介したい。

 高校時代の友人に"佐々木大蔵"という男がいる。普段は、笑顔が無邪気でどこか抜けていて周りから愛される、いわゆる「天然キャラ」っぽいやつだった。しかし、彼が突然「俺今度、K-1甲子園のベスト8をかけて試合するんだ。観にきてよ」なんてことを言い出した。「おいおい、天然キャラで面白いことは常日頃言ってるけど、狙って面白いことが言えるようになったのか?」なんて思っていたら、本当だった。

 まさかのK-1。小学生中学生の頃は大晦日の定番イベントで、家族揃ってテレビで見ていた。「そんなK-1にこいつが出るのか?」と、にわかには信じがたかった。

 実際に試合を見ると、普段の大蔵とは全く違う姿がそこにあった。めちゃくちゃ怖え。強え。めちゃくちゃぶん殴ってる(言い方)。大蔵はそこで勝利を収め、K-1甲子園のベスト8になった。

 いよいよベスト4をかける戦い。場所は日本武道館。確かテレビ放送も決まっていた。いきなり全国デビューってわけだ。そのK-1甲子園の事前番組で、当時在学中だった母校・山崎高校までテレビクルーが大蔵を取材しにきた。

 そこで大蔵の友人たちもインタビューをされた。「普段の大蔵くんの様子はどうですか?」みたいな質問だったと思う。僕もインタビューを受けた。彼とは一緒にアルバイトをしていたし、体育祭では同じ団。僕が副団長で、彼は幹部リーダー。かなり密なやり取りをしていたし、僕が大変な時には持ち前の明るさで色々と支えてくれた。そんな意味も込めて「とても頼り甲斐のあるやつです。」と答えた。

その部分が、しっかり使われた。イェイ。

 僕の全国デビューはサンドさんのラジオではなく、大蔵のバーターだった。今思えば「頼り甲斐がある」ってどういう意味なのかもよくわからないが、ニヤニヤした顔で語る姿が全国放送で流れたのだ。確かタレントの香里奈さんがナレーターだった。もう、彼女とも共演したと言っても過言ではない。大蔵ありがとう。

 そんな彼は結局、準決勝で破れベスト8に終わった。高校卒業後はプロになり、本格的に格闘家としての道を歩みだした。僕も大学在学中に作家を志し貧乏生活をしていたので、お互い夢追い人として勝手に応援していた。高校の同級生たちとはよく飲みに行っていたし、試合があったらみんなで観戦にも行った。

 しかし、当初の彼の戦績はあまり芳(かんば)しいものではなかった。辛うじて勝ち越してはいるものの、毎試合「大丈夫か…?」とドキドキしてしまう。一緒に戦ってる感が味わえる選手だった。

 そんな彼に転機が訪れたのが2016年6月。K-1の下にKrushという興行があるのだが、その第4代Krushライト級王座決定トーナメントで優勝。見事チャンピオンになったのだ。

 その時期僕はもちろんインドにいたから直接応援には行けなかったのだが、現場で応援していた友達からLINEで結果報告で写真が送られてきた。そこにはボロボロ泣きながらチャンピオンベルトを巻く大蔵の姿。

手前のネエちゃんのケツが気にならんではないが、夢にまで見た姿だった。誰よりも努力して、誰よりも命をかけて、誰よりも諦めずに戦った証だった。彼が一番「自分を信じていた」のだ。

 後ほど、YouTubeに上がった動画を見た。最後は“何が何でも勝つんだ”とか“何が何でもベルトを巻くんだ”という思いが溢れていた。がむしゃらに戦う姿に目頭が熱くなった。

 町田市長に表敬訪問。ベルトを手にしてから本当に表情が変わった。この間に、待望の第一子も誕生しているので、その責任感なども相まっているんだろう。その後は2度の防衛にも成功した。防衛戦ではさすがチャンピオン!と言った感じの貫禄で、安心して見ていられる試合だった。

 日本に一時帰国した時には、大蔵を囲んで祝勝会。試合が近いときには“前祝い”と題して、高校時代の友達と楽しいひと時を過ごすのが決まりとなっている。

ベルトを巻かせてもらったけど、本当に重みが違った。物質の重さではないものを確実に感じた。

 その後タイトルは奪われてしまうのだが、K-1 World GPでのスーパーライト級王座決定トーナメントで準優勝を果たし、来月にはさいたまスーパーアリーナのメインアリーナでの試合も決まっている。

 彼の活躍を見ていて、触発されないわけがない。「僕だってインドで一旗あげてやるんだ!」って気持ちが強くなった。彼の諦めない姿や、人一倍努力する姿は、周りの人に感動を与えたし、チャンピオンになってからは応援してくれる人が本当に増えた。ボクサーパンツにも協賛がたくさん載った。全て彼の気持ち、そして人柄だ。

 同い年のあいつが頑張ってるんだ。自分だって出来る。「自分を信じることの大切さ」を教えてくれた大蔵には本当に感謝している。これからもお互い、頑張ろうぜ!!またチャンピオンになってくれよな!!





See you next No Joke...





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