呟きもしなかった事たちへ_No.54(2023年11月号)

※コンセプトは創刊号をご確認ください。ぼーっとする文章が続きます。バックナンバーはこちら索引もあります。

油と炭水化物の塊であるという点で、たぬきうどんはグラタンコロッケバーガーを笑えるのか。

今月も、呟きもしなかった事たちへ。


タイムカプセル

資源ごみを出す日に、近所のごみ集積所に「Compaq」のロゴが入った段ボールがあった。当然のように「Intel, inside」というラベルが貼られている。おいおいおいおい。少なく見積もっても10年以上前のものだ。

段ボールというのは保管に便利なので、こうやって長い時を経ることがある。つまりCompawの段ボールにしまい始めたものを、保管をやめたということが分かる。Compaqの段ボールを出した家に長くあったのは、Compaqの段ボールだけではなく、その家の「保管されていたもの」もだ。その保管に何らかの転機が起きたのだろう。単にインターネットで「懐かしの画像」みたいなものを見るのとは違う、本物の時間がそこにはあった。

マイルドにする

10月3日のめざましテレビだった。ハンバーガーの紹介をしていて、肉が食べごたえのある食感だという話の後にこう言った。

チーズやアボカドがお肉の味をマイルドにしてます

何か違和感があった。チーズやアボカドは「濃厚」なイメージで、個人的にはチーズやアボカドは牛肉を「マイルド」にしているイメージは無かった。どちらかというと、濃いもの同士で上手くシナジーを出している…華やかに共演して良さを引き出すというイメージだ。でも、この「共演すること」を「マイルド」というのは若いというか、新しい日本語の感じがする。派手にしていこうと、ワンマンでなくすることがマイルド。

覚えておこう。

パビリオン

たまにChromeのシークレットモードでYoutubeを検索する(検索履歴に残したくない時にそうする)と、トップページのお勧めにいわゆる「日本に来た外人が日本の良さに感動する動画」が出てくる。聞いた話では最近中国でもこういう、白人が中国のことを褒める動画が流行っているらしい。要は自分が属する国を褒める動画で自分を慰める人たちがいるということなんだろう。

こういう動画、結局日本や中国だけでなく色々な国にあるのだろうし、それを各国分集めたら、結局各国の良い所自慢が集まったパビリオン、万国博覧会になるのではないか。

…いや違う、分かっている。見ていないだけで、この手の「良さ」を表す動画は、そのニーズから察するにどこか他者をディスっている。だからこれは優しさのパビリオンではなく敵対的なパビリオンになるだろう。そうではいけない。多分、龍吟の動画みたいな、粛粛と自分たちの粋というものを見せられるものをちゃんと並べるべきなのだ。

そしてそれが、ちゃんとした万博なんだろう。

大あくび

ファミマの無人レジで、大あくびをしながら2リットルの水を買うパンツスーツのOLがいて、なぜか「若いなー」と思った。

要素を分解できていない。だが、この感覚はきっと正しい。

やっつけ

自分が子供の頃、「チンパンジー型とオラウータン※型」という文章が流行っていた。

※オランウータンが最近の表現だと聞くが、これは古い話だ。

チンパンジーとオラウータンにパズルだったかを与えると、チンパンジーはすぐにガチャガチャとやりだすが、オラウータンはしばらくパズルの前で静かに佇んでいる。オラウータンはしばらくして不意に手を動かし始め、するすると正解にたどり着くと、パズルのクリアタイムははじめから悪戦苦闘していたチンパンジーとほぼ同じだった…というような話で、要は試行錯誤型と熟慮型とか、すぐに行動を見せるやつとそうでないやつとか、色々いるが実は結果を出すのは同じぐらいだということで、見た目の熱意だけで評価してはいけないよという、教育論だとか今でいうダイバーシティの先駆けとして随分流行って、受験用国語とかでやたら使われていた。しかしこれもまぁ随分使われなくなった。

思うに、オラウータン型と見せかけて締め切りまでギリギリ何もせずやっつけを最後提出するような輩もいるし、考えているのだとしたらその思考の進捗報告もせめてしてほしい。つまるところビジネスでオラウータン型を褒めるのは難しく、イマイチ使いにくい例えだったんだろうなと思う。確かに僕も今これが流行っていたら絶対にオラウータン型を擬態してやっつけの仕事をする時があると思う。

結婚指輪

結婚指輪は、人によってはお風呂の時に外したりするし、全然外さない人もいる。そもそもつけてない人もいる。以前指輪を付けていない既婚男性が「野球をやるから(バットを握る時邪魔だから)という言い訳が出来ますよ」と言いながら新橋で飲み歩いていて、なるほどと思ったが実際野球をしてみたら邪魔でもなんでもなかったので「おやぁ…?」と思ったものだ。まぁ男性の場合は、ごつい指輪にするケースもあるから嘘だったわけではないのかもしれない。

僕は全く外さなくて、ヘアスタイルを整える時ですら外さない。唯一「これは本当は外した方が良いのか…?」と思うのがおにぎりを作る時で、でもなんとなく家族の為におにぎりを作るというシーンで指輪外すのも妙な気がするので結局付けている。

こういうの、あまりわざわざ他人と話す事ではないのだけれど、結構聞いてみると個人差があって面白そうだよなと思う。情報交換したい。

ウェストポーチ

ボディバッグというものがまぁそれなりに市民権を得ている。スマートフォンが長財布や本やらいろいろなものの代わりを果たすようになったりして、小さいカバンで済むようになったというところだろう。女性だとサコッシュなんかを使っているケースもあって、スタンディングのライブに行く時とかに良いなと思うが、しかしボディバッグが好きになれない。

そもそもとして斜め掛けのカバンというものは一眼レフをぶら下げる時に相性が悪いという問題もあるのだけれど、それ以上に好きになれない理由は、僕らの世代は約30年前にウェストポーチをクソダサいと言って追放しなかったか?という点を自分で消化できていない点にある。自分で消化できていないと言った通り、世の中でファッションなどがループする事自体はおかしくは無いと思うけれど、それを自分の歴史に取り込むことが出来ない。

ウェストポーチはダサかったのに、ウェストポーチを斜め掛けすればOKなはずがない。だったらあの子供の時の、あのイジメにようなムーブメントはなんだったのか。今更それを無かったことにするにはあまりにも鮮烈で攻撃的な態度がウェストポーチにはかけられていたように思う。

早くサコッシュとか、女性向けにはよくあるボストンバッグを小さくしたみたいなトートとか、ああいうものを男性向けに展開してほしい。ボディバッグはウェストポーチなので受け入れられない。それを許せるほど永い時は経っていない。

↑クリエイターと言われるのこっぱずかしいですが、サポートを頂けるのは一つの夢でもあります。