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君の夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ

 推しの夢が叶った。

 時は遡り、私が推し……いや、「推しくん」と出会ったのは2014年の初夏。推しくんの所属するグループのことを追いかけ始めたが、最初は推しが決まらずみんな可愛く見えてしまう、いわゆる箱推し状態だった。初めてのサイン会も、初めてのチェキも違うメンバーに捧げてしまった。

 またその頃、私には一つの欲望があった

「仮面ライダー俳優をキャスト決定前から推して古参面してえ〜〜」

あまりにも人間として、おたくとして汚すぎる欲望。今振り返っても恥ずかしい。いやいやでも、菅田将暉さんのめちゃくちゃ古参の、それこそ仮面ライダーダブルに出る前からの、ジュノンからのファンってそれだけで「すげーな」と思いませんか?そういうことです。

 そして、私は推しくんを見つけた。推しくんは仮面ライダーになりたくて田舎を出て、高校卒業と同時に都会へやってきた。2014年当時、推しくんは21歳。まだまだ若い、チャンスはある。よく見たら顔もめちゃくちゃカッコいいし、キャラが独特でおもしろい。人気がダントツで最下位なところ、歌が下手なところ、リズム感がないところを除けばパーフェクトだ。こいつは、仮面ライダーになる男だ。だから私はこいつを推す。んで、仮面ライダーに決まったら全力で追いかける。そう決めた。

 ただ現実はそう甘くはなくて、ドライブにもゴーストにも出演できず、推しくんは23歳になっていた。23歳のバースデーイベントで推しくんはこう言った。
「歳を取ることに焦りを感じている」
私はずっと会場で泣いていた。推しくんが誕生日を迎えることが、嬉しいけどどこか悲しかった。グループ自体はどんどん大きくなって、全国区の仕事も増えたけれど、推しくんの知名度はびっくりするほど上がらないままだった。

 推しくんは演技をするのがダンスよりも歌よりも、何より好きだった。というか、所属するグループも元々エンターテイメント集団、ミュージカルをメインに活動するはずだった。アイドルのような活動をするのは結局それがウケるからで、演技よりも歌って踊ってファンと交流して……の方がメインになってしまっていた。推しくんはそれに対して思うところがあったようで、「歌って踊ってということに抵抗がなかったわけじゃないけど、今は歌もダンスも演技に繋がっている、演じるようにやろうと思って頑張っている」というようなことをインタビューで言っていた。いつか演技しまくれる日が来るよ、そう祈りながら推し続けた。

 そうして更に時は経ち、エグゼイドにもビルドにも推しくんは出演しなかった。推しくんが出ない仮面ライダーを観るのがしんどくて(あと推しくんに情熱を注ぐので精一杯すぎて)私は仮面ライダーをリアルタイムで追うことが出来なくなっていた。そして、推しくんは数年前はあんなに言っていた「仮面ライダーになりたい」をあまり言わなくなっていた。私はここでああ、諦めちゃったのかな、と落胆と同時にまあそうだよね、という気持ちになっていた。(ただ、たまーに諦めていない、と言うこともあったようだ。私はその現場に居合わせられなかった)

 ただ、推しくんは仮面ライダー以外の特撮も好きだった。ウルトラマン、ゴジラ、そして牙狼。特撮が好きだ、ということは口下手ながら頑張ってアピールしていた(一人で行うトークショーでも30分近く牙狼の話をひたすらして、おたくは置いてけぼりになっていた)。私の気持ちも、もうライダーじゃなくてもいいからとにかく特撮に出てくれ、じゃないと死にきれないというものに変わっていった。そして特撮には出れなくても、推しくんの演技の仕事は明らかに増えていた。殆どがマイナーな映画、深夜ドラマだったけれど……推しくんがしたい仕事を出来ている。このままなら、いつか。そう願わずにはいられなかった。

 また時は過ぎ、ジオウが終わり令和になった。結局平成ライダーには出演できなかったなあ、と思いながら活動を追い続けていた。しかしその途中なんと、劇場盤牙狼の舞台挨拶に推しくんがMCとして登壇する、という謎展開があった。出演してないのに……これは、「ある」かも知れない。おたく特有の妄言を並べていたらあっという間に令和2年になり、推しくんは突然グループのイベントを休むようになった。

 推しくんは東京で撮影をしている、早朝から頑張っているととTwitterやブログで報告した。夜には泥だらけになっている写真も上がった。これは、「ある」。またマイナー映画かも知れんけど、と出来るだけハードルを下げて見守っていた。期待していると、ロクなことがないのだ。

 そしてある日、私は推しくんと写真が撮れるイベントに参加した。そして高速の剥がし(10秒も喋れない)の中怖くなって遠回しに聞いてしまった。
「東京での撮影って秘密の仕事だよね?どれくらい期待していい?」
「うーん、適度に、適度にかな!」

おたくは剥がされながら「期待で寝れないよ〜!」と叫び、適度に期待することにした。推しくんは「寝て!」と苦笑いして手を振った。

 そこからまた数週間後、2月3日。推しくんの誕生日まで2日(毎年バースデーイベントがあるので有給を取ることにしているのだが、今年はイベントはないようだ。実家に帰ります)。

推しくんが牙狼の新シリーズに出演することが告知された。

 仮面ライダーじゃないし、牙狼でも主演じゃないし、変身できるかも分からないし、外伝だから監督は推しくんの憧れの人じゃないけれど、それでも、特撮に出られる。

 夢は叶ったのだ。まだ予告もキャラビジュアルも出てないから実感が沸かない。ただ、嬉しいことだけが確かで、帰り道はthe pillowsのFunny Bunnyをずっとリピートしていた。

2番の歌詞が特に沁みる。

 早くおめでとうって言いたいな。推しくんのこと、好きで良かった。諦めずにずっと(ゆ〜て5年だけど……)応援し続けて本当に良かった。心からそう思えた日でした。

 ちょっと早いけど、27歳の誕生日おめでとう。



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