悪玉、ではなかった【悪玉姫】
【悪玉姫】は、好みの男性の前では美人になり、そうでない場合は醜くなれるという妖しい力を持つ女性です。彼女が化粧鏡にしたという玉ケ池は、今もなお、鏡のような水をたたえています。(画像:大和町・宮城県)
悪玉姫が化粧鏡にしたという池の伝承は、他にも利府町、岩沼市、仙台市泉区、加美町などにも見られます。では、彼女はいったいどこにいたの?と探っていくと、どうやら利府町が悪玉姫伝承の発祥地であることを突きとめました。
元々の悪玉姫は、上記のような妖しい力を持つ物の怪ではありません。坂上田村麻呂の愛人となった女性です。ただし、いわゆる美女ではなかったと思われます。発祥地と思われる利府町の伝承によれば「誠に醜い女だった」とあります。本来、公家の姫君で美しい娘だったが、伊勢参りの際に騙され、召使いとして九門長者の家に売られたのだと。彼女は自分の身を守るため、観音様にこんなお祈りをしました。「ふつうの人には醜い女と見え、身分の高い人には元の美しい姿に見えるように」。この願い通り、身分の高い坂上田村麻呂には美しく見え、愛人となったわけです。ただ、公家の姫君というのは後の人たちが創った(美化した)話でしょう。悪玉姫のモデルとなったのは、実在した庶民の娘と思われます。790年頃の利府にいたとされる長者の召使いの一人で、坂上田村麻呂の愛人となった女性です。後に彼女は、坂上田村麻呂の息子を身ごもり、その産小屋に関する伝承も存在します。当時、京都から来た大将軍と召使い娘との関係は、大注目のスキャンダルだったのではないでしょうか。
そのうわさが他の地域にも伝播し、その過程で伝言ゲームのように内容が変化し、大和町にうわさが行き着いたときには、妖しい悪玉姫となっていたのだと思われます。
(参考文献など)『宮城県黒川郡七ツ森周辺の民話』『陸前の伝説』『滅びゆく伝説口碑をたずねて』「九門長者の屋敷跡」に建つ利府町教育委員会による解説版
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