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住宅の温熱環境を巡る話題 結露③

今回のテーマは『窓の結露』の続き

 前回のおさらいをしておこう。

 まず、何より避けたいのが「構造材の劣化につながる窓の結露」であり、それがもっとも激しい結露と考えてよい。次に避けたいのが「目視できるカビを発生させる窓の結露」で「構造材の劣化につながる窓の結露」よりも結露は少なくなる。そしてこれ以外の(これより少ない)結露は気にする必要はない。

1.構造材の劣化につながる窓の結露

 結論から言えば、最近の新築で一般的に使われている窓であれば、こうした結露はまず起きないと考えてよいだろう。ただし「冬の外気温が特別に低い時間、室内湿度がとても高い、窓の断熱性能を高める内側の付属物を使う、何らかの原因でレールに溜まった水が排出しにくくなっている」というような条件が重なり、しかもそれが継続すれば起きるかもしれない。しかしこれはかなり特殊な状況だし、激しい結露が起きている初期段階で原因を突き止めれば対応は可能だろう。

 なお、「最近の新築で一般的に使われている窓」とは、次のようなものを指す。正確には「温熱環境や省エネルギーに関心が高い住宅会社が最近の新築で一般的に使っている窓」ということになろう。

 ・1地域~3地域:樹脂サッシ&Low-Eトリプルガラス

 ・4地域~7地域:樹脂サッシorアルミ樹脂サッシ&Low-Eペアガラス

2.目視できるカビを発生させる窓の結露

①我が家の経験

 まずは我が家の話をしよう。

 我が家では「目視できるカビを発生させる窓の結露」が起きたことがある。それはキッチンの北側のアルミサッシ&普通ペアガラスの窓で、リフォームしたときに吊り戸棚をその窓の前につけたことによって窓と吊り戸棚との間に隙間ができ、「熱は届きにくいが湿気は届く」というような状況になっていた。ちょうどタンスの裏と似たような状況ということだ。タンスの裏は結露とカビに注意しなければいけない。

 そういう場所だったので気がつくのが遅れ、「キッチンにいるとなんだかくしゃみが止まらないなあ」と思ってカビを疑い(私はアレルギー体質)、調べてみたら引き違いのレールにたくさんのカビを発見したという次第。そこで「どんな結露が起きているんだろう?」と観察を続けると、窓ガラスの下部とサッシにかなり激しい結露が起きていて、その結露水がレールに流れ落ちていた。そうした観察から「なるほど。これくらいの結露が起きるとカビが生えるんだ」という認識を持つことができた。ちなみに改善策としては、その隙間に空気が入らないように詰め物をしたのだが、その後は結露もほとんど起きていない。

 一方、リビングやダイニングにある3枚の窓(これもアルミサッシ&普通ペアガラス)は冬に朝起きると窓の下部にほぼ毎日結露している状況だ。その結露は「うっすら」ではなく「結構な」という感じ。このうち2枚はハニカムスクリーンを付け、1枚は断熱に配慮した厚手のカーテンにしている(カーテンボックスを付け、カーテンを床まで伸ばしている)。こんな窓にこんな付属部材を付けているので、結構な結露が起きるのも当然だろう。

 しかし、こうした状況が10年以上続いているのだが、この3枚の窓のいずれにもカビは発生していない。3枚とも掃き出し窓で、レールの掃除も半年に1回くらい。つまり「結構な結露は起きているが、小まめに掃除をしていなくてもカビは発生していない」という状況だ。この経験で「カビを発生させるような結露は簡単には起きないもんだ」と考えるようになった。こうした自分の経験からも、ちょっと結露するような状況は何ら問題がないのに、世の中はそんな認識にはなっていないことが不健全だと強く考えるようになったわけだ。

 もちろん私は「これくらいの有機物の量があったときに、これくらいの結露が起きればカビが発生する(もしくは発生しない)」ということを明確につかんだわけではない。しかし、こうしたことを実験室で確かめるのはかなり困難だろう。レールの有機物の量を変えつつ、結露の発生量も変えていきながらの継続的な実験が必要だからだ。そういう意味で私は貴重な経験(観察)をしたことになる。

②カビを発生させない結露とは?

 我が家のリビングやダイニングにある3枚の窓の結露を観察してみると、朝は「ギリギリ結露水がレールに落ちるか落ちないか」の状況になっているのだが、その状況は時間が経つにつれてなくなっていく。もしそうならなくて、その日の朝の結露が時間が経っても残ることになれば、結露はどんどん増えていき、レールに流れ落ちるようになってしまうはずだ。そうなれば(キッチンの窓のように)カビが発生する可能性が高くなる。つまり、「レールに流れ落ちていないという状態の結露であって、しかもそれが次の結露が起き始める前に消える」という状況であれば、それが「カビを発生させない結露」と判断してよいことになろう。

 ちなみに、我が家は朝も含めて最小限の暖房しかしていないし、共働きなので日中の室温は高くない。それでも結露が増幅していくという状況にはなっていない。確かに日当たりの良い窓のほうが乾きは速いが、そうではない窓でも昼頃には結露はほぼ消えている。なので、暖房をかけるような一般的な家ならば、さらに結露は消えやすくなるはずだ。つまり、我が家の「昼頃にはほぼ消える程度の結露」を「目視できるカビを発生させる可能性が低い結露」と考えることは安全側の判断として問題ないと思われる。

 極めて残念ながらその結露の写真を撮影しておらず、その状況をみなさんと共有することができないが、先にも書いたように「レールに流れ落ちない程度の結露」と考えてもらえば良い。

レールに結露水が流れ落ちない程度の結露で済む窓

 こうした窓が「カビを発生させるような結露を起こさない窓」と考えただけだが、そうした窓がどのようなものかを考えようとするとき、何より重要になってくるのが(前回述べたように)気象条件と付属部材だ。この2つを設定しながら、レールに結露水が流れ落ちない程度の結露で済む窓を探していくというアプローチになる。なお、滑り出し窓などではレールがなく、こうした状況を想定できないが、下部窓枠を結露水が超えるような結露として考えればよいだろう。

 まず外気条件(外気温)を考えてみよう。当然ながら外気温は地域によって変えるべきだ。そこで参考になるのが「結露①」でご紹介した長期優良住宅の結露対策の内容だ。具体的には『長期優良住宅認定等に係る技術審査マニュアル』に記載されている内容になる。

 このマニュアルでは、「最寒月の日最低気温の平年値」としてRC造の表面結露計算用の外気温が地点別(都市別)に紹介されている。ここで検討しているのは窓の表面結露を考えるための外気温だが、これに従っても問題はないだろう。

 たとえば6地域の代表地点である岡山市をマニュアルで見てみると、この外気温は0.8℃となっている。東京なら2.4℃だ。ただ、こうした地点別の外気温情報がわかったとしても、そんなに細かな外気温条件別に観測された(実験された)結露に関する情報を入手することはまず困難なので、もっとざっくりと見るほうが現実的だ。

 そういうことで、このマニュアルに記載の地域別の外気温の全体をざっと見てみた結果として、以下のような外気温を想定すれば良いと思う(安全側として判断している)。窓メーカーが実施している結露実験において外気温をどのように設定しているかは詳しく知らないが、おそらくキリの良い数値にしている可能性が高いと推測するので、そういう意味では3地域が微妙な数値になる。もし-10℃の外気温条件で実施された実験結果があれば、それを見れば良いだろう。

 1・2地域:-15℃、3地域:-7℃、4・5地域:-5℃、6・7地域:0℃

 次は室内の気象条件。これもまずは『長期優良住宅認定等に係る技術審査マニュアル』を見てみることにする。

 このマニュアルでは内部結露の計算における室内温湿度条件を「10℃、70%」としている。おそらくこれは非暖房室を想定したものと思われる。まずは非暖房室を想定した場合としてこの条件を押さえておこう。ちなみにこの空気の絶対湿度は6.57g/㎥。

 次に暖房室を想定する。非暖房室より暖房室のほうが発湿源が多いから、もう少し絶対湿度は高くなると思われる。そこでたとえば「20℃、50%」で絶対湿度を計算してみると8.64g/㎥となって悪くない。私は室内温湿度の実測結果をたくさん見ているが、この「20℃、50%」というのは最近多くなってきたエアコンで暖房している状況よりも相対湿度が高い。ただこれは安全側だし、キリのよい数値なので窓メーカーが実験で想定している条件と合う可能性も高そうだ。ということで暖房室想定の場合として「20℃、50%」という条件を押さえておこう。

 最後は付属部材。これはカーテンを想定するのが妥当だろう。

 ということで、すべての条件が出揃った。まとめておこう。

<外気温(外気の湿度は不要)>

 1・2地域:-15℃、3地域:-7℃、4・5地域:-5℃、6・7地域:0℃

<室内気象条件>

 非暖房室想定:10℃、70%

 暖房室想定:20℃、50%

<付属部材>

 カーテン

 こうした条件(もしくはこれに近い条件)で観察された(実験された)情報があって、その情報によって「レールに結露水が流れ落ちない程度の結露で済んでいる」ということがわかれば、その窓が「目視できるカビを発生させるような結露は起きない=問題のある結露を起こさない」という判断になる。

 ぜひ窓メーカーには、実験条件と併せて結露実験の結果を要求してみてほしい。そのときには、ここで書いたように「自分は結露しない窓を探しているのではなく、レールに結露水が流れ落ちない程度の結露で済むような窓を探している」ということを伝えてほしい。そうすれば窓メーカーから情報が得られるかもしれない。

 長くなってしまったが、これでようやく求めたい情報を探し、判断する方法が見えた。

3.付記

 ここで述べた論理展開において、曖昧さが残るのは「結露が乾く現象」のところ。我が家の観察結果の信頼性が少し低い可能性もある。なので、こうした実験を窓メーカーあたりで実施することを望む。非常に有用な情報が得られると思う。

 私はいくつかの限られた窓の結露実験の結果を見ている(その中には公開されていないものもあるが、残念ながらいまの段階でそれをここで紹介できない)。その結果を見る限り、本稿の最初に書いた「最近の新築で一般的に使われている窓」について、少なくとも5地域以南ではまず間違いなく「問題のある結露は起きない」と考えてよいだろう。これは「他の地域では問題のある結露が起きる可能性がある」ということではなく、私が得ている情報が少なく、コメントすべきではないと考えたからだ。誤解なきように。

 最後に、私がもっとも伝えたいのが「自宅で窓の結露やカビ発生の状況をよく観察してほしい」ということ。そうすれば私のように貴重な経験や知識を得ることができるはずだ。シミュレーションや計算、窓メーカーからの情報を得るといったことよりも、まずは自分で観察し、思考することが重要だと思う。そしてそのときに、この結露3回シリーズで述べてきた理科的な内容が大きな参考になるだろう。

 次の投稿はもう少し気軽な話題にしたい。



 

 



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