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住宅の温熱環境を巡る話題 湿度②

冬と湿度、そして諸々

 今回は「冬と湿度」を中心に考えたい。また、前回に書けなかった湿度の話題についても触れる。まずはちょっと専門的になるが、ASHRAE 55-2017の話から。

 有名なASHRAE 55-2017(ASHRAE:アメリカ暖房冷凍空調学会)から提示されている以下のグラフを引用して、「絶対湿度で見たほうがよい」とする意見があるようだ。このグラフは、快適なオフィスの空調を設計するための資料として使われるものだが、ここには相対湿度と絶対湿度が併記されている。

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 網掛けになっているところが快適域として提案されているもので、そこには絶対湿度(縦軸)として0.012kg/kgという上限がある。これに注目して「相対湿度としての上限はないが、絶対湿度としての上限があるから、ASHRAEも絶対湿度のほうを重視している」というような意見があるわけだ。

 このことについて、前回(湿度①)ご紹介した動画で田辺さんは、これまでASHRAEが提示してきた快適な湿度域について「相対湿度を使ったり、絶対湿度を使ったりして、様々な議論がある」と紹介しつつ、次のような解説をされている。

 『ASHRAE 55-2017にある快適域のグラフでは「着衣量が0.5clo~1.0clo、代謝量が1.0met~1.3met」の条件として絶対湿度の上限(0.012kg/kg)が書いてあるが、これを超えたところでも快適な室内温熱環境はあり得る。着衣量、代謝量、絶対湿度がこの条件を満たさない場合に(もっとフリーな条件で)快適な室内環境を設計する場合はグラフではなく別の詳細な計算方法を使えとASHREA 55-2017に記載がある。グラフで絶対湿度の上限が決められているのは、(快適性の問題というよりも)空調計画上いろいろ問題が出てくるからだ。』

 つまり「相対湿度ではなく絶対湿度の上限が決められているから絶対湿度のほうが重要」というふうに考えるのは早計ということになろう。「空調計画上いろいろ問題が出てくる」との田辺さんのコメントにおける「いろいろ」が何なのかについては、IBECを通じて田辺さんに聞いてもらっているところ。おそらく空調設備内の結露問題などを指していると思われるが、返事が来たらまたご報告したい。

1.冬の熱的快適性と湿度

 このテーマについては、前回で解説は済んでいる。冬も含め熱的快適性において影響が大きいのは温度(気温と放射温度)であり、湿度の影響は小さい。だから熱的快適性を向上させるために湿度をコントロールすることの優先順位は低い。このことは先程ご紹介したASHRAE 55-2017のグラフで、絶対湿度の下限(相対湿度としても同じ)を設定していないところからも理解できる。

2.過乾燥問題

 「冬と湿度」というテーマにおいて、この問題が真っ先に浮かぶ人が多いだろう。ここで「過乾燥問題も熱的快適性の一部なのでは?」と思った人もいるだろうが、研究者はこれを分けている。熱的快適性のほうは、人体と外界との熱収支で説明される現象であり、一方の過乾燥問題は後で述べるように、それとは異なる反応だ。

 住宅建築実務者の間でも、近年過乾燥のことを話題にすることが増えてきたように思う。相対湿度で見れば、以前ではあまり見かけなかった30%を切るような住宅が増えてきた。この原因として私が予想するものもあるが、そのことについてここでは詳しくご紹介しない。簡単に言えば、室温が上がったことと(水蒸気を出さない)エアコンで暖房する家が増えたことが大きな原因だと思う。

 このあたりを整理するために、田辺さんが動画で「湿度の非温熱的影響」として挙げている項目を以下にご紹介しよう。

 鼻腔の乾燥、ドライアイ、皮膚、ハウスダスト・ダニ、カビ、ウィルス、静電気ショック

 念のために補足しておくと、前回「熱的快適性と湿度」「健康性と湿度」という表現をして、湿度の影響を熱的快適性と健康性に分けたが、本来は健康性ではなく非温熱的影響という表現が正しい。ただ「健康性」と言ったほうがわかりやすいから(最初から「非温熱的影響」と言ってもイメージしにくいだろうから)、そうした言葉遣いをしたわけだ。

 さて、上に挙げた項目の中で過乾燥に関係がありそうなのは「鼻腔の乾燥、ドライアイ、皮膚、静電気ショック」だろう。

 これらの項目について田辺さんは、パワポを使って次のようなコメントを書いている。

■鼻腔の乾燥:室内の相対湿度が25%以下になると鼻腔の乾燥を知覚する。乾燥によりゴミや微生物の除去が困難になり、細菌やウィルスが長く存在し、風邪を引きやすくなる。

■ドライアイ:乾燥環境によって起こるドライアイの症状は、低相対湿度、速い気流下で起こる。眼の乾燥には個人差があるが、相対湿度20%~30%では、コンタクトレンズに付着する塵が多くなり、不快感が大きくなる。

■皮膚(での乾湿感):快適な相対湿度は気温23℃で70%のとき。

■静電気ショック:これを防ぐためには相対湿度の下限を30%~40%幅にする必要がある。英国の冬季の実測例では、35%を境に静電気ショックが多くなっている。

 以上の記述で注目しておきたいのは、相対湿度を使っていることだ。皮膚(の乾湿感)では気温条件と併記されているから、これは絶対湿度で表現してもまったく同じであることは前回で述べた通り。

 つまり冬の過乾燥問題についても、あえて絶対湿度を持ち出す理由は見当たらないことがわかる。

 ついでに言えば、JJJ-CHANNNEL動画で前さんは「過乾燥を感じる何より大きな原因は気流が身体に当たることでしょう」と述べているし、このことを示すような論文もある。

3.ウィルスの問題

 新型コロナウィルスの拡大によって、ウィルスに大きな関心が集まっている。「冬と湿度」というテーマを考えるにおいて、除外できない問題だろう。

 もうずいぶん前になるが、湿気のことを調べる中で「インフルエンザの流行は相対湿度より絶対湿度に高い相関がある」という論文を見つけて、それが正しいと思ってきた。今回、この原稿を書くに当たって、改めていくつかの論文を探して読み、田辺さんの動画解説も注意深く見た。ちなみに、ネット上では「温度と湿度(相対湿度)を管理しよう」「絶対湿度に高い相関がある」といった記事が目立つ。

 いくつかの論文を読んだ感想としては「うーん、そもそもインフルエンザと湿度との関係は難しい。相対湿度ではなく絶対湿度に相関が高いという話も簡単に判断できないなあ」だった。

 そういう認識を持ちつつ、田辺さんの動画解説を見た。

 まず田辺さんは、パワポの中でこのように書いている。

■ウィルス:空気感染は媒介となるウィルスの湿度への反応が様々であり、普遍的なパターンはない。

 しかし、その後「ウィルスと湿度」について解説しているところでは、「インフルエンザの空気中での生存率は、20.5℃~24℃の条件において相対湿度が低いほど生存率が上昇する」といった海外の研究結果を紹介しつつ、「極端な低湿にしないという判断でよいと思います」というような表現をされている。前回ご紹介した田辺さんのコメントである「1年を通じて、住宅での湿度は30%~70%にするという感じで良いと思います」の内容と合わせれば、30%以下になることを避ければよいという理解になりそうだ。

 また、田辺さんが絶対湿度を使った説明をしておられないことに注目した。もし「インフルエンザは絶対湿度に相関が高い」ということが研究者の間で確定的なのであれば、そのようなコメントをするはずだ。

 そんなこんなの結果として、「インフルエンザウィルスを含む、ウィルスと湿度との関係について私が正確に理解するのは無理」という判断になった。ただ、おそらく相当数の論文を読み、議論にも加わったと思われる田辺さんが、湿度が30%以下になることを避ければよいとコメントしていることを私は信頼しようと思う。

 付記すれば、JJJ-CHANNELで田辺さんは新型コロナウィルスのことについても触れているので、参考にされてはいかがだろう?

 次回は結露のことについて述べる。結露は間違いなく絶対湿度が重要になるが、「そもそも結露は何が問題か?」といったことについても私見を述べたいと思っている。

4.今回のまとめ

 「冬の熱的快適性と湿度」については、夏と同様に相対湿度を使って考えればよく、絶対湿度を使う意味は見当たらない。冬の過乾燥問題についても同じ。「ウィルスと湿気」について個人的に明確な判断はできないが、田辺さんの「湿度を30%以下にしなければよい」という意見を信頼したい。



  

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