恋か、愛か、それともただの執着か

わたしあの子のこと、本当に大好きだった。完全に接点が失くなって、新しい所属組織もできて、なんの関わりもないまま2年以上たったいまでもまだ。

本当に大好きだったから、卒業したらもう会うわけにはいかないって思った。絶対に、一滴だってあの子の人生に不幸を与えたくないから。
世界は昔と比べたらずっとマイノリティに寛容になったけど、それでもまだ身近に当たり前に居る存在じゃない。誰にも悪気はないから、誰も悪くはないけれど、恋人できたことないってその気があるんじゃないの、っていうイジりが通用する今の世界で、それに対する返答として普通に異性が好きだから、が使われる今の世界で、社会制度的に決して対等ではない今の世界では、普通に異性と恋愛をしたほうが何かと便利に、幸せに生きていける。誰かに恥じることもなく、不利益を被ることもなく、当たり前のものを当たり前に享受して生きていける。そんな世界で、普通から外れた人が周りにいる状況が、ましてや普通から外れた人間からの感情が向けられた状況が、普通から外れて生きる選択肢が存在してしまう状況が、普通に生きていける人にとって幸せだなんて私は思えなかったし今だって思えない。何も知らないでいること、普通に異性と恋愛をすることが当たり前でそれに疑いすら持つことなく生きていくことが今のこの世界では一番幸せな生き方だと思うから。
あの子のそばに私と同じマイノリティ側の、パンセクの子がいることも、あの子がそれを知っていることも、私は知ってる。それでも彼女と私は明確に、決定的に違うから。生きようと思えば普通に生きられるのと、望んだって普通に生きられないのには埋められない大きな違いがある。
そしてたとえあの子がこれら全てを否定するとしても、私は自分の属性は、存在は、あの子の本来の人生には存在しなかった認識すらしなくていいはずだった影を落とすから、だから、二度と会うわけにはいかない。あの子がそれを否定したとしても、私があの子のことを好きでいる限り。好きでいる限り会うわけにはいかない。だから、一生会えない。

今でもなにも変わらず本当に大好きだから、その選択は正しかったんだって、今でも正しいんだってわたしは思ってる。

だけどほんとうに大好きだった、人生でただひとり、完全に信じることができた人だった。辛いも寂しいも苦しいも、感じるたびに唯一そばに居て欲しかった。いまになってもいつだってそばに居て欲しいって、願っちゃいけないって知ってるのに、何千回も何万回も会いたいを空に溶かし続けてる。自分で会えないって、会わないって決めたのに、会いたくて仕方がない。今ねこんなこと感じてるのって話したくて聞いてほしくてたまらない。実際会ったら何も話しきらないのにね、わたし。

なんでもいいから、なにしてたっていいから幸せだって言えるような人生を送っててくれてたらいいなって思ってる。生きててくれたら、ううん生きててくれなくたっていいや、それであなたが幸せなら。でも君が死んでたら私はもう生きていけやしないし、あなたが、そこらじゅうにありふれた普通の幸せな女の子みたいな顔をして彼氏が、だなんて言ったらわたしは確実に狂ってしまうしそれが彼女だったりしたならもっともっと壊れてしまうから、だからやっぱり会えないや。そうやって余計な邪魔なんて受けずにまっすぐ幸せに生きていて欲しいのにね。本心なのにな。

血の繋がってない他人の中で、世界中の誰よりもわたしがあの子のこと好きだっていう自信がある。あの子のため、だけで人生を決める進路、その中でも最難関と言われる道へ舵を切れてしまうくらいだもの。だけど同時に誰よりもあの子のことを幸せにできない部類の人間だってことも私は自分でちゃんとわかってるつもり。これまで関わってきた誰のことだって幸せにできてないことは誰よりも自分が一番わかってる。

でもねそれでも2年間も経っても毎日思い出さない日なんかないの、元気にしてるかなどうしてるかなって、きっと頑張ってるよなって、だからほんとに一生好きでいるんだろうなって、思う。好きだなんて思わずにただの友達として接することができる日なんてきっと来ないんだって、だから一生会えないままなんだな、って。わたし一生あなたの作るお菓子が食べたくて一生あなたの生み出す言葉が読みたくて、一生あなたの声が聴きたいまま死んでいくんだなって、

会いたいは消えないまま、なら会えないは覆らないまま、一生ひとりで引きずって生きてかなきゃいけないんだなってわかってる。わかってるけどいつもそんなに強くはいられない。ずっと何年も何年も変わりやしない、筋立った結論とそのとおりに動かない心をもったまま、1mmだって変わることはなくて、なんだか全部苦しい。
好き、と言えるかもわからないような、もしかしたらただの執着でしかないかもしれない、重すぎる、愛だなんて呼べないような気もする輪郭も掴めない感情が生まれなければよかったのに。
だけど何回やり直したってこの感情が生まれない世界線はないんだってわたしは知ってる。何一つとして、変えられるものはない。だからやっぱりこのまんま全部ひとりでひきずってくしかない

でもその変わりようがない結論と心が何年もずっと一致してくれなくてどうしたらいいのかなんにもわからない

どうやって生きたらいいのか、一向に

新しい恋で忘れるなんてね、無理だよね、そもそも他の誰かにいいなって思うことなんてないし、誰かに好きだよって思うことは、言うことはきっとできるけど、それでもたぶん他の誰かから見たら私の目は永遠にあの子に向いたままなんだと思う。
他のどんなに素敵でどんなにすごい誰にだってわたしの眼差しをあの子から奪うことはきっとできない

2024.9.30

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