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レベルK思考と対戦ゲーム ~ 読み合いというプロセスを整理するお話

今回は対戦ゲームにおける読み合いの話です。

皆さんは読み合い、好きですか。
私は好きです。
皆さんもそうですよね。
それじゃ始めます。

タイトルにある"レベルK思考"という表現について、私は最近知りました。
名前はなんか高度そうですが、説明してみるとそれほど大層なことではありません。

たとえばじゃんけん。
無条件でやると読みも何もありませんが、相手が「グーを出します」と宣言したと仮定し、それに対応する場合を考えます。
割とよくある話ですね。

読み合いゲームの話をするときに必ず引き合いに出される世界一有名なゲーム。

「グーを出すのか、よし分かった」と考えて素直にパーを出すのがK=0の思考です。

そして、「グーを出すと言ったのでこちらがパーを出すのを読んで相手はチョキを出してくる」と考えてグーを出すのがK=1の思考です。

既に言いたいことは伝わったと思いますが、確認のために次も見てみましょう。

「グーを出すと言ったのでこちらがパーを出すのを読んで相手はチョキを出してくるのを読んでこちらがグーを出すことを読んで相手はパーを出してくる」と考えてチョキを出すのがK=2の思考です。

せっかくなのでもう一個くらい行きましょうか。

「グーを出すと言ったのでこちらがパーを出すのを読んで相手はチョキを出してくるのを読んでこちらがグーを出すことを読んで相手はパーを出してくるのを読んでこちらがチョキを出すことを読んで相手はグーを出してくる」と考えてパーを出すのがK=3の思考です。

そろそろやめておきましょう。
というかK=2のあたりから多分誰もちゃんと読んでないでしょう。

まさに終わりがないのが終わり。

このように「K=nの自分の思考を前提とし、それに有利な相手の思考を読み、さらにその手に勝てる手を思考するのがK=n+1の思考」ということのようです。

なお、一般的には対戦ゲームにおいてはK=1~2程度の思考で十分、というのがこの手の用語を解説するサイトにはお決まりのようについてきます。

そうなんでしょうか。
ちょっと考えてみましょう。

じゃんけんの例で分かる通り、K=2の時点で既に文章化するとちょっとややこしいです。
そしてじゃんけんならまだいいですが、もっと状況が複雑なゲームでこれ以上考えると、もうわけがわからなくなりそうです。

しかもこのじゃんけんのK=2の例では、これだけ廻り回って結局、相手が宣言通りの行動をした場合には負けてしまうリスクのある手を選択しています。

だからグーを出すって言ったじゃん。
ひょっとしてじゃんけんをご存じでない?

宣言通りにグーを出して勝った時の煽り方の例。

この「相手が普通の行動をしたときに裏目を引く」というリスクを承知の上で自分の手を選択する、というのは心理的になかなかできるものではありません。

また、俗にラダーと呼ばれるインターネット上でランダムマッチングを繰り返すようなシステムにおいては、相手がどのような思考をするのか、その傾向が分からないままに何試合も連続して戦います。

ラダーとは梯子のこと。脚立はステップラダー。

このような場では心理的なリスクの他に、対戦を繰り返すための脳のリソース節約という観点から、素直に行動する(K=0)か、その裏をかく(K=1)の2択になりがちです。

したがってこちらがそれに勝つためには、K=1またはK=2で十分、というわけです。
そう考えるとなんだか理に適っているような気がしますね。

ちなみにこの「K=2で十分」理論については、1000人規模の大掛かりな実験もあるそうです。
今回はその実験については割愛しますが、なかなか興味深い結果だと思うので気になった方はぜひ調べてみて下さい。

さて、一方でこの逆、つまり「K=3以上を考慮する必要のある場面」というのもここから見えてきます。

例えば対戦相手の思考の傾向が分かっている場合。

いわゆる身内読みはこの典型例です。
一般的には考えられない、あるいは考えにくい選択であってもハマる可能性があります。
極論ですが、相手があるK=nの思考を100%選択する場合、こちらはK=n+1の手を出せば100%勝てます。

テストだってある意味出題者との読み合いなので、読みが当たれば勝てます。
良い子のみんなは読み勝たなくてもいいシチュエーションを目指しましょう。

あるいは十分に思考時間がある場合。
相手が読みを入れてくるだろうと想定できる場合。

大きな大会などで対戦する場合なんかがこれにあたるでしょう。

いわゆる「勝負所」を迎えた時に、裏をかきにいったりさらにその裏をかいたり、みたいな典型的な心理戦です。

先ほど言ったような「素直な行動に対して裏目を引く」リスクがより心理的なハードルを高めますが、だからこそそれを乗り越えて読み勝つと"神の一手"といった称賛の嵐が巻き起こります。

これは神の切手。

マンガ『カイジ』の名ゼリフを引用するまでもなく、読み合いというものは考えれば考えるほど、ついつい自分視点での考えに陥りがちです。

しかしそのような思考は得てして、相手の視点からはありえない選択肢を前提に思考していたり、逆に当然の一手を見落としていたりするものです。

というわけで今回のまとめです。

相手のことをよく理解していたり、あるいは大きな大会になって読み合いが深くなるとK=3以上(時にはK=0に見える)の選択もありうる。
しかしランダムマッチなどの特定の場面では、K=1~2くらいで十分という意見も確かに説得力があるように思われる。

もちろん、多くの場合100%の正解はありません。

でもこう考える人が多くなってきた場合、ランダムマッチでもK=2,3の思考をした方が勝率が上がって…?
はい、みんな大好き無限ループの世界へようこそ。

まさに終わりがないのが終わり…ん、この展開どこかで見たような。

さて、なんだか当たり前のことを小難しくまとめただけのようにも見えてきました。
まぁでもせっかくこうして文章にしたので公開してみようと思います。
皆さんの読み合いライフにも何か足しになることがあれば幸いです。
…「読み合いライフ」なんて世紀末な日本語あったっけ。

それではまた。

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