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誰のためのデザインか?

誰のために仕事をしているの


うちの会社のデザイナーの面接試験で必ず質問することがあります。
「なぜあなたはデザインの仕事を選んだのですか?」
すると95%の人はこう答えます。
「デザインの仕事が好きだから」
そこで僕はさらに突っ込んで意地悪っぽく質問します。
「好きだからやっているのであれば、それは自分の楽しみのためにやっているのですか? 誰のために仕事をいているのでしょうか?」
誰のためと聞かれておよそ70%の人はそれはクライアントのため、とか、クライアントの喜ぶ顔が見たいからと言います。残り29%が自分のためと言います。

まだ僕がサラリーマンデザイナーだった頃、つまりデザイン会社に勤めていた頃は、クライアントの言うことは絶対で、言われたとおりに修正したり、A案とB案の折衷案を追加で作ったり、社長の好みに合わせたデザインを作ったりしていました。クライアントと打ち合わせをするのは営業職の人達です。

僕らデザイナーがこうしたほうがいいんじゃないのと言おうものなら「いや、お客さんがこうして欲しいといってんだから、つべこべ言わないでやってよ」なんてことは日常茶飯事。
「じゃあ、要求されたデザインとこちらの提案する方向性のデザインの2つを持って行ってくださいね」と言って渡しても決まるのはお客さんに要求されたデザイン。

どのようにデザインが決定されているのかもよくわかりませんでしたが、おそらく営業はクライアントの言うことを聞いていれば楽なので、あえてこちらの提案をプッシュする様なことはしません。お金の計算も売上目標もありますから、なかなかデザイナーのことなんて聞いてくれません。

あたりまえじゃないの?

とお思いでしょうか?そこには何かが欠けていると思いませんか?


クライアントの言うことは絶対か?


経営者とデザインの話をすることが多いのですが

社長:「俺はこういうのが好きだなあ、こんな感じにしたいんだ」
私:「はあ、なぜですか?」
社長:「なぜって、いいと思うから」
私:「いいと思うのは社長がですか?」
社長:「そうだよ」
(なにか?)みたいな顔で言われます。

これらに欠けているもの。それは「お客様」です。

デザインを発注するクライアントではなく、その先のお金を出してクライアントの商品やサービスを買う一般消費者のことです。

上記のいずれの場合もデザインを発注する人とデザイナーしかそこには存在していません。一般消費者のことは両者ともあまり考えていなのです。

たいていのデザイナーはクライアントの言うことは基本的に言われたとおりに作り、修正します。なんか違うなあとか、それはありえない!と思っても、クライアントの言うことは絶対だと思って、言われたとおりに作ります。そうしていればクライアントは満足するし、楽だし、自分に責任はないからね。言われたとおりにやっているのだから。まさに面接に来たデザイナーが言う、クライアントの笑顔を見るために仕事をしているようなものです。

それとは反対に「社長、このデザインがベストです、これ以外にありえません!このデザインで行きましょう!」などと、自分のお気に入りのデザインを強引に薦めるデザイナーも存在します。クライアントのお金で、自分自身の「作品」作りに専念する勘違いしたデザイナーです。


正解のデザインとは

しかし、デザインは何のためにあるのでしょうか?少なくとも商業デザインはクライアントの商品やサービスを売るためにあるのでしょう。買う人は一般消費者です。彼らにとっていいな、素敵だな、というデザインが正解のデザインで、クライアントの社長やデザイナーが好きと思うかどうかはあまり重要ではないのです。
若い女性のターゲット向けのデザインを50歳を過ぎたオヤジの好みで決めてしまっては売れません。

ただしその社長がとことん自分のお客様を理解している経営者であればむしろ意向をよく聞くべきでしょう。感覚で物を言っても、その感覚が的確ならばかまいません。ユニクロの柳井社長は新聞の折込広告を社長直々にチェックしています。チラシの作り方によって売上が大きく変わるということを経験から知っているからだそうです。つまりお客様の事を理解していないとそんなことはわかりません。

セブン&アイホールディングスの鈴木敏文会長も、お客様の事を徹底して理解しようとした経営者です。デザインだけではなく、商品開発もお客様にどうすれば喜ばれるのかを追求しています。

お客様のためを思う経営者とデザイナーが、どういうデザインであったならば、お客様がこちらを向いてくれるのか、好きになってもらえるのか、買っていただけるのかを一緒になって考える。経営者と一緒に議論したりアイデアを出し合う。そこには経営者とデザイナーがお客様の方を向いている、お客様のためにデザインを考える。そういった形が本来あるべき形だと思っています。

社長の好き嫌いは二の次です。クライアントのその先の一般消費者のためにデザインをしているのです。
まあ、それでも社長の”あり得ない”好みの案に決まってしまうことはあります。

とはいえ、お客様にとって良いデザインで、なおかつ社長の好みに合えば一番良いのだから、なんとか 「三方良し」のデザイン を目指したいと思っています。


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