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あにの テストの話

 どうも。おとおとにやたら持ち上げられて気持ちの悪いあにです。

 ゆうても市内で一番の学校に行ってもなければ、なんなら二番目の学校でも下から数えたほうが早い成績でしたからね! てんで大したことありませんからね!


 さて数年前、市民センターでこんなチラシを見つけました。

「○○大学✕✕研究室 治験者募集」

 なんでも特定状況下での脳波の変化を測定することで、脳の仕組みを解明するための研究をしており、そのため沢山の人からデータを集めたいとか。

 大学の! 研究室で!! 脳波の測定!!!

 説明! つまりバックトゥーザフューチャーで過去のドクがかぶってたような機械を頭につないで自分の脳の動きを直接観察することができるということでしょうか。

 めっちゃおもしろそう!

 正直最後に書かれた「謝礼1万円」の文字にも心を惹かれつつ早速メール。翌日曜日に市街地から少々離れた総合大学のキャンパスへと赴くことになりました。


 当日。

 十数年ぶりの大学キャンパスというものにウキウキしつつ、目的の研究室に到着。大きな建物の中の一室を想像していたのですが、意外にもキャンパス内の森の中にひっそりと佇む一棟の建物です。研究室というより研究所と言ったほうがしっくりときます。
 これは期待に胸が弾みます。
 なにせ相手は脳の仕組みを解明しようという、脳科学の権威です。どんな人が出てくるのでしょう。
 ゴジラの芹沢博士のような見るからにヤバい感じでしょうか。
 究極超人あ~るの成原博士のような見るからにヤバい感じでしょか。
 ロックマンのDr.ワイリーのような見るからにヤバい感じでしょうか。
 もういっそのこと生身の体を捨てた、ブリキの迷宮のナポギストラー博士のようなのが出てくるかもしれません!
 逸る気持ちを抑えつつ、インターフォンを推します。

 ピンポーン

「あ、お待ちしておりました。いま出ます!」

 出てきたのはロンTにジーパン、中肉中背のお兄さん。

 ですよねー。

 研究所に入ると、さっそく着ているものを全て脱がされ、体中に何やら電極のようなものを付けられ、頭には色々なコードの繋がれたヘルメットのようなものをかぶらされ、部屋の真ん中にぽつんと置いてある硬いベッドの上に寝かされると、手枷足枷で動きを封じられ

「やめろー! ショッカー!」

 などということはなく、見慣れたコクヨの会議机とオフィスチェアーの置かれた部屋へ案内されます。

 そこでペットボトルのお茶とお菓子を出してもらい、今行っている研究の簡単な内容、意義、そしてなぜ沢山のサンプルが必要か、などを簡単に説明してもらいます。

「あと、実際に脳波を測る前にまずは知能テストを受けていただいて、知能指数、いわゆるIQの測定をさせていただきます」

 なんと。知能指数ですと。

 確かに一般的な脳の働きを調べるのに、あまりにもおバカな人がサンプルに混ざってしまっては実験の精度に支障をきたしてしまうことでしょう。
 よござんしょ。
 正直自分の素の能力値が露呈してしまうことに一抹の不安は感じますが、これも謝礼の1万円と人類の科学の発展のためです。やむをえません。

 テストの内容は、ジャポニカ学習帳程もある問題冊子から先生が問題を説明しながら出題。あにが回答すると、先生が正解とも不正解とも言わずに見えないところに結果をメモしていくといった感じ。問題は国語、社会、理科、数学や図形問題など多岐にわたり、なんとなく小学生の時に学校で行った知能テストを思い出します。

 正解か不正解かも知らされず「○○について説明してください」といった質問にどこまで詳しく答えればいいのかもわからない不安のなか回答を進めていきますが、なんとなく先生の表情が曇っています。がっかりというか、残念なオーラが感じられます。
 これは…もしかして、あに……思った以上にアホなの?
 やばい、もっと必死に取り組まなくては…!
 せっかく家から電車二本も乗り継いでやってきたのに、アホすぎて役に立ちませんでしたではあまりにも不甲斐ない。
 なによりこんな所で科学的にアホが証明されてしまってては今後生きていくのに支障をきたします。
 全集中です! 鬼滅の刃は読んでませんが!
 先生の出題に全神経を集中し、ここ10年ろくに使ってこなかった頭脳をフル回転させるのです!


 30分ほどでしょうか、1時間ほどでしょうか。
 全ての回答が終わり、先生が採点をして戻ってきました。

「えー、結論から申しますとせっかく来ていただいたのですが、あにさんの脳波は測定いたしません」

 そんな……そんなにヤバい結果だったのでしょうか……

「今回の実験でサンプルとして測定させていただく対象は、人口の70%を占める知能指数85から115の人を一般的な人と定義して行うのですが、あにさんの場合130ということで、この定義から大きく外れてしまいました」

 おや?

「IQ130というと人口の上位5%に入るということで、いや素晴らしい結果ですが、残念です」

 おやおや?

 つまり、頭が良すぎて一般人認定されなかったと?

 あには

 頭が良すぎて

 使い物にならないと!


 結局その日は休日を潰したあげくに電車賃だけ握らされてトボトボと帰宅しました。
 しかし心の中はなんと晴れやかなことでしょう。
 そうこれまで30数年ただの「あに」として生きていた私でしたが、今日からは「IQ130のあに」なのですから。

 以上、最近メンサ会員にも興味のあるあにでした。


追伸

 後日この話を高校時代の友人米山くんにしたところ

「あー、そのテストなら大学時代(文学部心理学科)に何度かやったよ。だいたい130前後出るんだよねー」

 これだから市内第2位の学校で上から数えたほうが早い成績のやつは…。

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