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【小説紹介】『赤と青とエスキース』

著者:青山美智子さん

“でも今のわたしは、思うことがある。
不思議なことに絵画は、たくさんのひとにみられて、たくさんの人に愛されていくうちに、勝手にどんどん成長していく気がするのだ。描き手から離れたあと、自ずと力がついていくような。
あれはなんなのだろう。芸術作品はみな、人々の目に映ること、心に住むことで、息吹いていくものなのかもしれない。発する側ではなく受けた側が何かに込める祈りや念のようなものを、わたしはシンプルに感じ取っている。”

以前読んだ『お探し物は図書室まで』もとても素晴らしい内容でしたが、本作も心温まる感動的な作品でした。

ひとりの人間の穏やかな日常を切り取って、読者に感動や勇気を与えてくれる、そんな作品を何冊も生み出してしまうなんて、凄すぎる……

以下、なぜか自分の琴線にふれた言葉を引用させていただきます

“始まれば終わる。
そんなことはみんな知っているはずなのに、気がつかないふりして、あるいは終わりなんかこないってそのときは本気で思って、かんたんに人を好きになったりする。
もしくは誰かに好きって言われて、なんだか自分もそんな気になって、私もよって答えたりする。
そんなふたりが世界中にあふれている。鍋の中に沸いたあぶくが消えるみたいにぽこぽこと、あちらこちらで始まっては終わっていく。
なんだってそうだ。スタートさせるのは思いのほか容易なことで、おしまいはいつも、あっけない。難しいのは、続けること。どこが最終地点なのかわからないまま、変わりながら、だけど変わらないで、ただ続けること。”

“値段やランクなんてつけられないという、絵を愛する純粋な気持ちには共感する。
しかしその一方で、やはり金が動かなくては食っていけないものも事実だ。売れなければ世間に認知されず、次の作品を出すこともできない。”

“つまんねえってノーリスクで評するヤツに振り回されると、逆にホントにつまんねえ作品しか描けなくなるぞ。だからそういうの気にすんなよ”

“俺はなんでも、わかりやすく表に出ているものだけで判断していたかもしれない。
こいつのこと、今までどれだけちゃんと見ていただろう。”

“芸術とビジネスが絡み合うとき、どうしてもきれいごとでは済まされないゾーンがある。絵や画家に対する熱意だけでは回らない。扱いたくない商品を求められることもあるし、自分の推したい絵が粗末に扱われていくのも目にしなくてはならない。裏取引の実情があることも、無視はできなかった。”


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