チーフデータオフィサーの仕事
自分がCDOとしてデータ戦略という名目で約3年半考えてきたこと、日々行っていることを目次的に書き出しておきます。
これからデータ活用したい、会社のデータ活用レベルを高めたい、と思っている方のヒントになれば幸いです。
各項目の詳細はご要望があればいつか書くかもしれません。
データ戦略の目的を決める
・データ戦略そのものは手段であり、企業の目的、目標達成に貢献するものでなければならない。
・企業が今目指しているものは何か、それを実現するための戦略は何かを確認する。
・究極的にはデータの役割は以下の3点に集約される。
・売上の増加
・コストの削減
・新規事業の創造
・そこに対してデータはいかにして貢献できそうかを考える。
・よく「データの民主化」がデータ戦略のタイトルになることがあるが、これは戦略の全体像からすると1段下のレイヤーだと思う。データ戦略の目的を達成するために、使うべき人が使える状態になることが民主化。
・いずれの場合であれデータ戦略は以下3つのステップになる。
・データを増やす
・データの価値を高める
・データを使う
データを増やす
・データを活用して得たい価値に対して必要なデータを定義する。
・現在自社が獲得できていないデータが必要な場合にはそれを収集する方法から考える。
・データの収集方法は以下の2つに大別される。
・自社で集める
・他社から借りる
・最も簡単なのは自社の事業/サービスで収集可能なデータを扱うこと。
・現在の事業/サービスで収集できていないデータが必要な場合には事業やサービスの構造を変えてでも取りにいかなければならない場合もある。
・市場に対する定量調査やユーザーインタビューなどの定性調査の結果などいわゆるリサーチも自分の中では「データを増やす」に該当する。お金をかけてしっかり設計すれば、目的に沿ったきれいなデータが手に入る。
・と思っていたら、最近では「ゼロパーティデータ」という名前で、サービス上でユーザーに許諾をとったアンケートデータが増えてきているらしい。こちらは許諾さえとれば当該ユーザーに対するマーケティングにも使えるので効率がいい。
・他社から借りるのは自社で集めるより早いが中長期で考えると得策ではない。アライアンス/データエクスチェンジなど方法はいくつかあるが、データの形式/利用期間/利用範囲などで制限を受けることも多い。
・他社から借りてきたデータは本質的には自社の強みにはなり得ない。あくまで自社の戦略に活かせそうか確認するためのPoC的な位置づけにとどめること。
・どうしても時間を短縮したいのであれば会社ごとM&Aするくらいの気概が必要。
データの価値を高める
・収集したデータを適切な場所に適切な形で溜める。使いたいときに使えないデータに価値はない。
・いわゆるデータ分析基盤を構築する。
・データ分析基盤の役割は、大量のデータを、必要な時に必要な人が必要な形で、気軽に使えるようにすること。
・データ分析基盤は以下の3層の構造に分解される。
・データレイク
・データウェアハウス
・データマート
・データレイクは事業/サービスなどで収集されたデータをそのまま置いておく場所。加工されていないことこそが重要。その後の加工処理で間違ったときにここに立ち戻れる。
・データウェアハウスはみんながよく使うデータを整理された形で格納しておくもの。多くの人がデータを使う際に、同じような処理を重複して行う必要がないように、事前の処理や定義の統一などを施しておく。
・データマートは使う人の数だけできる。使う人が使いたいデータを使う分だけ切り出したもの。最終的にはここがアウトプットに直結するため、どれだけ必要なデータマートが作りやすいかというのはデータ活用度を測る指標になりそうな気がする。
・AI/機械学習などによる分類、予測も個人的にはこの「高まる」の領域に入れておきたい。データ分析というのは詰まるところクラスタや予測値などの新しいカラムを生成することによりデータの価値を高めることだと思う。これを使うに入れてしまうと分析自体が目的化する気がする。なんとなく。
・データの価値を高めるためにもう一つ重要なのが抽象化。想像力と言ってもいいかもしれない。データそれ自体は現実世界で起こったことの記録に過ぎないので、それを単なる足跡とみるのか、地図とみるのかによってその後の使い方に幅が出てくる。
データを使う
・データの使い道は誰が何のために使うかで以下の2つに大別される。
・社員が自分の仕事のために使う
・ユーザーが自分の利益のために使う
(重複している部分も多いが)
・「社員が自分の仕事のために使う」はいわゆる意思決定の精度向上。データを見る/分析結果を聞くなどして自分の仕事の成功確率を高める。
・この場合、使う人は多岐にわたる。経営者からマネージャー、現場の営業/マーケター/エンジニアなど。誰もがデータを使うための知識/スキル/意欲を持っているわけではないというのがポイント。
・経営計画の予算配分から社員の適切な配置、はては営業が今日電話すべき取引先の選定やサービスの障害検知などデータを活用した意思決定の効用/適用可能範囲は恐ろしく広い。
・自社のデータが何に使えるのかよくわからない、という相談をたまに受けることがあるが大概の場合、自社のデータよりも自社の仕事に対する理解が足りない場合の方が多い印象。仕事の目的、現在の課題、どうすれば成果を高められるか、という観点がしっかりあれば、手元にあるデータを活用するのはそんなに難しくない。(手元のデータでは足りないとわかるのも難しくない)
・手軽に多くの人のデータを見るスキルを高めたいのであればBIツールの導入がおすすめ。数値の羅列では示唆を得づらい状況でもビジュアライゼーションすることでなんとなく気付きが得られる。何よりちょっと楽しくなってくるのでデータを身近に感じる。
・とはいえデータをただ並べて見ているだけだとたいした示唆は得られないし、何よりデータを読み違える。なので、データを整理/分析/表現するための専門家としてデータアナリスト等の職種を採用/育成する。
・「ユーザーが自分の利益のために使う」というのは、データの自社サービスへの適用。ユーザー自身がサービスを使いやすくなったり、より多くの便益を感じてもらうためにデータを活用した機能向上を行う。
・例えば、ECサイトでユーザーごとにおすすめの商品を表示するレコメンドロジックや自分が興味のある種類の情報だけを広告で受け取るように設定するなど。
・ユーザーのユーザー自身のデータとの接点は必然的に利用しているサービス/プロダクトとなるので、そこを開発/実装するエンジニアの仕事のために使っているとも言える。
・あえて分けて書いたのは個人の特定や同意の取得が絡んでくるのが多いのが後者なので。収集する段階からしっかりと法務面も含めて検討しておかないとリリース直前でやりたいことができないといったことにつながる。
・サービスに対するデータ(AI)の適用はなるべく事業の中心で使う。レコメンドロジックの実装や、改修のためのABテストもしかり。良くも悪くも事業に影響を与えない隅の方ではうまくいったところでインパクトが限られる。データ活用の場合、人件費がコストの中で最も高くなる(原資となるデータはサービスからほぼ無料で手に入るので)ので試すときもスケールを意識して試さないと回収できない。
・とはいえ、事業の中心に新しい仕組みを入れるのは反発も生みやすい。普段から事業サイドとデータサイドでコミュニケーションをとっておくことも大事だし、データアナリストたちが説明責任を果たす/説明可能性を高めようとするのももちろん大事。
・しかしながら、より大事なのは会社を動かす経営層/事業を動かすマネージャー層がデータに対する可能性を感じ理解を示すこと。CDOとしてはデータ分析の前線で戦うアナリストたちに余計な説明責任が発生しないように経営/事業サイドの上席者に代わりに事前交渉しておいたり、会社の重要機能としてデータ部門が成果を発揮するための牽制/要求をしておきたい。
・仕事のため、ユーザー自身のため、と書いたが、これも究極的にはデータ戦略の目的である会社の上位戦略に合致しているかどうかが大事。というか社員自身、ユーザー自身は自らのために思うがままに使えばよいが、CDOはその結果が売上/利益の最大化につながるように方針付け/準備/調整するのが仕事になる。
・データのガバナンスについてもしっかり考えておきたい。ここまで書いてきたような自社のデータ戦略を社員に理解しておいてもらうことで、増やす/高める/使うといった各機能の実行/強化がスムーズに進むようになる。また、戦略に即した形で組織を動かすためにデータ活用に関するルールの制定や権限管理の考え方なども追々必要になる。
・会社のデータ活用を阻む壁の一つに法律に対する対応がある。特に個人情報周りは法制度が目まぐるしく変わるので常にアンテナを張っておいて損はない。(自分もそちらはまったくもって自信がないので)法務部門と常に連携し新しいデータを取り扱うときは必ず一度相談する、不安な時は顧問弁護士に相談してもらう、というスタンスで問題ないと思う。
・しかし、法律上は問題なくとも感情的に問題になると炎上、社会問題化する可能性があるのも最近のデータビジネスの怖いところである。「データは誰のものか」という問いに対しては明確に「データはユーザーのもの」という考えをもって、預けてもらったデータに対する価値を早急に返すことで、ユーザーと企業の間にデータの預託に関する信頼関係を築けるようにしていくことがより重要だと思う。
データカンパニーとは
・データによる「新規事業の創造」についても触れておくと、これは前述の「データの抽象化」がポイントになると思う。前述の通り、データは自社サービスで集めるしかないので、集めたデータをそのまままっすぐ使うと当然だが既存サービスの成長のためにしか使えない。
・そこで集めてきたデータをより抽象化して捉えなおす。これは誰のどんなデータなのか。それは別の角度から表現するとつまり何なのか。異なる業界異なるシーンでは別の価値を生むかもしれない。となったときに、そのデータを強みとした新規事業/サービスの種が生まれる。
・が、当然だがその時点では当該データはその新規事業のために集められたデータではないのでそのままでは使えないことが多いだろう。ということで新たなサービスの形をイメージしたうえで既存サービスで収集するデータを設計しなおし、また増やし、高めて、使うというループに突入する。
・新規事業であれ、既存サービスであれ、データ戦略のいったんのゴールは「データを強みとした成長のサイクルを描ける状態にすること」にあると思う。
・自社のデータを企業/事業の成長に活かすことができていれば、必然的に自社のサービスを使うユーザー/顧客、登録される商品、購入されるトランザクションなど、サービスの成長や時間経過により多くのデータが溜まってくることになる。そのデータを優位性としてサービスが成長し、成長したサービスはまた新たなデータを生む。
・これが自分がCDOとして目指しているデータカンパニーとしての姿であり、データビジネスを主業とするかどうかにかかわらず、こういった自社のデータを強みとして成長するデータカンパニーをこの日本社会に一社でも多く増やすことに少しでも貢献できたらと思う。
目次というより内容の箇条書き、思考の書きなぐりといった感じになってしまいましたが、一通り読んでいただけたら私の考えるデータ戦略の概略はつかめる気がします。
データ分析やデータ基盤に関する記事は世の中にけっこうあると思うので、もう少し経営に近い立場からのデータ戦略の全体像という角度で書いてみました。
また随時思いついたら更新していきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?