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妊娠出産の話 - 2015⑨ きてますきてます

エヌに通い始めてすぐに気になったことがある。
エヌにいる乳児はみんな小さい。ぷく氏も例外でなく、私の手のひらからひじまでの腕がぴったりサイズのベッドになるほど小さい。
大きさはそう変わらない。
ところが、他のベッドの赤ちゃんは小さい声ながらもホゲホゲと泣き、身体をぎゅっと縮めたり伸ばしたりしている。
ぷく氏は泣かず、だらりと伸びっぱなしで、ひたすら寝ていた。その活気のなさは異常に見えた。


当時は毎朝、目覚めとともに布団の中で打ちのめされていた。
私は確かに赤ちゃんを産んでお腹が痛いのに、ベッドには赤ちゃんがいない。おかしいな。
そうだ、エヌにいるんだった。
エヌでじーっと動かずに寝ているんだった。
今日も、ミルクを飲まないのだろう。
今日も、泣かないのだろう。
おむつは時間で交換なのだろう。
そうでした、そうでした、エヌにいるんだった。
だらだらと涙が流れて、耳に入る。
…よし、起きて綿棒だ。


毎日、エヌに入ってまず看護師さんに昨晩のぷく氏の話を聞く。

昨日はミルクたくさん飲めたんですよ!
泣いて呼ばれたんですよ!

おお、えらい!がんばってますね!

と応じるが、すごいことのはずなのにどうしてもピンとこない。
不思議なもので、飲まない、泣かない、と落ち込んだわりに、実際にそれができたと聞いても、たいして嬉しくない。

矛盾する心境を看護師さんに話したところ、もともとエヌの看護師であったが、現在、研究のため大学院と行き来しているという女性を紹介された。
彼女の研究は、エヌに入院する子どもの親の心理とそのカウセンリングについてだった。
ベッドサイドにやってくると、うんうんと話を聞き、あなたはとてもいっしょうけんめいやっています、と言い、私に休養とチョコレートをすすめた。


それからスタバに入ると、本日のコーヒーを頼んだ。
後でチョコレートチャンクスコーン(あたため)も頼もう。
早速、持ってきた書類で検索。

そう、ここが前回の検索場面です。

教えて!Google先生!
プラダー・ウィリー症候群ってなぁに?

◆プラダー・ウィリー症候群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/プラダー・ウィリー症候群

◆プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群
出典: 小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/05_41_089/

◆プラダー・ウィリ症候群(指定難病193)
出典: 難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4768


コントロールしづらい心身で生きる知的障害児(ゆくゆくは知的障害者)。
そんな印象だった。

新生児期の患者像を読む限り、ビンゴっぽい…が、ビンゴだと話が重すぎるので、他も当たりたい…とりあえずスコーン…
情報から逃避したくなる。

以降、ぷく氏と時間を過ごすほど心の中では、そうなんだろうと思わずにいられなくなっていった。
数日のうちにずいぶんと「プラダー・ウィリー症候群+α」の検索が増えて、私のスマホのGoogle先生は、「プラダ」と入力すると、「ブランド」「バッグ」「店舗」より先に「プラダー・ウィリー症候群」とサジェストを出すようになった。


そうやってモヤモヤを過ごしているうちに、コロ助氏が帰還した。
その晩、早速、ぷく氏の育児には終わりがないかもしれない…と切り出して不在中の話をすると、コロ助氏は大変に驚き、言葉少なになった。
そして翌朝、気になってなかなか眠れなかったといってきた。
そうだよね、心配になるよね。でも私は知っている。

それぜったい時差ボケ( ^ω^ )

コロ助氏は体内時計が正確なのであった。



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