SING ネクストステージ


あらすじ


第1作でハッピーエンドを迎えたムーン劇場一味。
地元では人気劇場となり、彼らの公演は完売を続けるほどの盛況ぶりとなる。
しかし、そんな彼らの舞台を見た敏腕スカウトには「力不足」と一蹴される。
それに腹を立てたムーン一味は敏腕スカウトが勤める超有名興行会社のオーディションに潜入。
少しズルい手を使って嘘を混ぜながら剛腕社長を口説き落とし、舞台制作を一任される。
しかし、その舞台には行方をくらました伝説のロックスターの出演や剛腕社長の娘を主演させることが条件とされて、、、、

ネタバレあり感想

ストーリー

正直、ストーリーの厚みで言うとかなり薄い映画。


まじで捻りゼロのシンプルなストーリー。


シンプルに「これだけのアーティストでこれだけのアニメ映画を作ったんだ!凄いだろ!」という意気込みを楽しむことためだけに見るべき映画。

物語の起承転結の起の部分、テンポが早すぎる。
オーナーのコアラが「オーディション受けに行くぞ!」と意気込むものの、それについて行く団員諸君にとっては目的が何なのかよくわならないうちに話が進んでいくため、観てる側としても「なんでこいつらは黙ってついて行くんだ?」と置いてけぼりにされる。
全てにおいて行動の動機づけが雑なため、ご都合主義な映画と言える。

例としてはラストシーン。なぜか剛腕社長がいきなり逮捕される。確かに物語の途中途中で主人公コアラを監禁したり高所から落とそうとしたり落としたりと色々悪いことはしてた。
しかし、監禁されても爆速で脱走するわ突き落とされても爆速で助けられるわで全部が中途半端に終わったから「悪行」としての印象が薄い。
そのせいで、逮捕された時には「え?どれが逮捕されるほどの問題だったの?」という疑問が浮かぶ。
とにかく細かいところで具体的な説明がされている描写がない。

そして気になったのは前作からの繋がりがないこと。
前作の主人公の行動原理は「紆余曲折を経て手に入れたこの劇場を守りたい」というところがスタート。
で、今回は「スカウトに力不足って言われて腹立つから見返してやりたい」
前回、必死な思いで再建した「俺の大切な劇場」が最後まで全く無視されてる感がすごい話だった。
映画のスタートではその舞台で行った公演を敏腕スカウトに「小規模な劇場でならこれで満足されるでしょうね」と劇場ごとディスられる。それをバネに、剛腕社長の所有する舞台でなんやかんやあって大成功を収めるまでは良かった。
その後、地元の劇場に戻って凱旋公演をして地元を沸かせるみたいな展開を予想してたら「もっとでけえ劇場から公演オファー来たぞ!」って言って、そのデカい劇場で幕が上がる瞬間で映画が終わってしまう。
第一作で大事に大事にされたはずの「俺の大切な劇場」はこけにされただけでお役御免となっている。
いやいや、第一作のあの奮闘は何やったん…と思わざるを得なかった。

子供向けアニメ映画としては構造上の問題が多くないか?

重要事項の説明が後回しにされてる。
物語序盤のオーディションシーンでロックスターの歌を歌う一同のシーンがある。
ここで歌われるのはU2の「Where the Streets Have No Name」(作中ではロックスターであるライオンの曲という設定になっている)
正直なところ日本人には馴染みがない曲であり、世界的に観たとしても子供向けのアニメにしてはちょっと世代を外しすぎてる曲。
しかし、そのシーンでは「この曲が流れたってことは昔のアーティストの曲だ!ってわかるよね?」的な感じで説明一切なしに話が進む。

作中で使われる『Where the Streets Have No Name』の原曲MV
※名曲だけど子供知らんやろ…


だから、子供からすればこの歌が何かわからない&これを歌う人物が何者なのか説明がないうちに支配人が「大好きな歌手だ!」と興奮してたり、「こいつをキャスティング出来るなんて本当か?」と疑ってたりしてる。
「あ、この曲は即興曲じゃなくて他人の曲なのね。で、そいつは昔の人なのね」といった具合に観てる人間が察してあげないといけない作りになってるのは酷いもんだなと感じた。

日本のアニメ映画で、説明もなしに矢沢永吉の「止まらないha~ha」をいきなりキャラクターが歌い出して偉そうな奴らが「この曲は!!!」とか言ってても小学生が共感をするわけが無かろう。

小学生でこの曲を歌えてたら英才教育だね

そういう細かい部分を無視して大人向けに選曲等されてるのが雑。
使うのは良いけど、子供向けなら先に丁寧な説明してやれよ感。

ビリーアイリッシュのBAD GUYとか世界的にSSS級に有名な曲もチラホラあるけど、どちらにせよ子供の琴線に触れる曲は少なそうな印象。

映像はしこたま綺麗


そこは世界のイルミネーション。デフォルメするところとリアルに寄せるところのチョイスが絶妙。
パフォーマンスシーンでは特にそれが際立つ。
ワームホールのような劇場でどうやってそれ見せるんだよ?っていうような非現実的演出は「非現実的なものだから受け入れてくれ」として消化する一方、キャラクターが空中に立っているように見えるシーンでは透明なアクリル板をワイヤーで吊るして、その上にキャラクターが立っているというのがわかるように描写されている。
そして、何よりステージパフォーマンス時の映像が綺麗。
アニメだから出来る演出が盛りだくさんで見てて圧倒されるシーンも多い。

声優が凄い

特筆すべきは、この作品は世界で唯一完全吹替となってる作品であるということ。
セリフの吹き替えは各国の声優等がやっていることはあっても、歌唱シーンまで母国語で吹き替えているのは日本だけ。
それもあって、子供が知らない曲でも物語を純粋に楽しむことができる。

まずは、ちゃんと全員歌がめちゃくちゃ上手い。
前作から引き続きMISIA・大橋卓弥・坂本真綾を起用している他、アイナジエンド・稲葉浩志も加わったことにより一作での音楽的満足度はかなり高い。
そして、トレンディエンジェル斎藤・長澤まさみも当然のように歌が上手い。
SixTONESのジェシーも参加してるけど、正味ちょい役ではあるが歌が上手いし別に気になることは少なかったから、終わった後でジャニーズだったのかと気付くレベル。

アイナジエンドは声優まで上手だから驚いた。
歌に関しても初登場シーンで軽く歌うシーンの時点で格の違いを見せつけてて、ストーリー的に逆に大丈夫なのか?と思うレベルのクオリティ。


ロックスターがあまりにも稲葉浩志だった

稲葉浩志の声優面は100点ではないけど意外と上手で、特にがなり声がめちゃくちゃ上手い。
ただ、どうしてもキャラの凄みに対しては声が細いと言うか高い。
しかし、それを吹っ飛ばすくらいに歌唱シーンで稲葉浩二の稲葉浩志たる所以を見せつけてくれる。

総評 「吹替だから見てられた」


全体的には雑さが目立つ作品。これでセリフだけが吹替だったら楽しめない映画だった。
おそらく、英語圏ではたそれなりに楽しまれてただろうけど、日本でそのまま公開してもうんともすんとも言わない映画だったろうなという感じ。

吹替キャストの歌唱力・演技力のおかげで持ち堪えたけど、ストーリーの脆さとか気になる点は多い作品だった。
日本頑張った!

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