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別れ際はいつも寂しい②

別れ際はいつも寂しい②

遅刻しないようにとセットしたはずのタイマーは鳴らず、茉央さんとの待ち合わせに寝坊をかましていた。


「茉央さんごめんなさい。今起きました」と送信すると数秒で既読がつき『ごめんなさい。私もです』とお互い様の状況に笑ってしまう。結局1時間後の集合となり慌てることなく出掛ける準備を始めた。




待ち合わせ場所に到着するも、茉央さんの姿はない。立っている間に吹く風はやけに寒く感じる。まるで心に隙間が空いている感じ。


『〇〇君〜おまたせ〜』


遠くからでも分かるその暖かな声が心の隙間を埋めていく。手を振りこちらへ誘導した。


「すいません。寝坊してしまって…」


『それはお互い様。だから、謝るのは禁止!次したら覚えているよね?』


「冗談って言ってたじゃないですか…」


『細かいことは気にしないの!ほら、行こ!』


自然な流れで手を握られる僕は茉央さんの方を見た。特に顔が赤くなる様子もなく、平然としている。


『なんかあった?』


「いえ…なんでもないです…」


出会って二回目。考えすぎかもしれないけど、これが自惚れじゃなかったらいいなと思いつつ、目的の場所へと向かって行った。




『本当にいいの?奢ってもらって…』


「はい。この前、迷惑をかけましたから…そのお礼に」


『じゃあ…お言葉に甘えて。いただきます』


「美味しそうに食べますね」


『そう?』と口をもごもごさせながら話す姿も可愛い。まるで、デートをしているかのような感覚で、今日来れなくなった茉央さんの友達に感謝せねばならない。願ったり叶ったりな状況なのだから。


『なぁ…所で〇〇君は彼女とかいないの?』


「へ?い、いませんけど…」


『ふぅ〜ん。そっか。〇〇君のも〜らい!』


「あっ!一番楽しみにしてたやつ!」


『余所見はいかんぞ!〇〇氏!』


静かな店内で騒ぎ合う僕達。店員さんに注意されて謝り、目を合わせ心の中で笑い合った。一息ついて「茉央さんも彼氏は居ないんですか?」なんて聞く勇気は無いけど、今はそんなことよりこの時間を楽しみたいなと思って心にしまった。


結果を求めることよりも今を楽しもう。そう言い聞かせ、コーヒーを口に含んだ。





『美味しいかった〜』


「ですね。こんなに人気なお店だとは思いませんでした」


『でしょ?デートに持って来いの場所だか…あ…』


「へ…デートって…」


『あ…いや…その…』


「茉央さん?」


『ごめん。本当は友達がこれかなったのは嘘なの。〇〇君と一緒に来たくて…でも、どう誘っていいかわからなくて』


「そうだったんですか…」


茉央さんの言葉を聞いて自惚れではなく、お互いに同じ気持ちだったと知り嬉しくなる。俯く二人は人波に流されて、裏路地へと移動した。

"あ、あの!"と言葉が重なり譲り合う僕達。なんだか目を合わせることが出来ない。でも、この先に進まなきゃ一生後悔すると僕は思った。


「茉央さん…ちょっと僕についてきてくれませんか?」


『う…うん』


今度は僕から、彼女の手を掴んだ。お互いに耳が真っ赤で喋る余裕がなかったけど、気持ちは一緒だとなんとなく感じていた。

そして、向かった先はおもちゃ屋さん。


『〇〇君?ここでなにするの?』


「買いたいものがあって…茉央さんここで待っててもらってもいいですか?」


『あ、うん』


店内を巡り、お目当ての物が見つかる。"寂しがり屋のうさぎ"二つで一つのキーホルダー。離れ離れになっても寂しく無いようにをテーマに作られたキーホルダー。


「茉央さん。お待たせしました」


『なに買ってきたん?』


「これ…あげます」


『え…可愛い!いいの?』


「はい。二つで一つなんです」


『お揃いってこと?』


「はい。お近づきの印として。これからもよろしくお願いします」


『んふふ。はい。よろしくお願いします!』


友達として大きな一歩を踏み出せた気がした。

おもちゃ屋さんから出たあたりで、茉央さんのスマホに着信。どうやらご家族からみたいだ。


『〇〇君ごめん。そろそろ帰らなきゃ』


「送って行きますよ」


もう手を繋ぐことに恥ずかしさはなくなり、自然と同じ歩幅になっていた。駅前に到着すると明らかこの場所に似合わない車と遠目から見て黒服の様な人が立っていた。


「まさか…ですよね?」


『そのまさかですね。〇〇君着いてきてください。お会いしてもらいたい方がいるので』


『ササキ!お待たせ!』


「お嬢様…お待ちしておりました。ではどうぞ」


『ちょっとその前に。覚えてる?〇〇君のこと』


「お家に運んだ時の青年ですか?」


『うん。今そこにいるから、挨拶して』


「はい。かしこまりました。」


『この前酔い潰れた時に〇〇君のこと運んでくれたのうちの執事なの』


「ご紹介にあがりました。五百城家の執事ササキです」


頭の中でやっと点と点が繋がった。


「挨拶が遅くなってしまってごめんなさい。あの日は本当にありがとうございました。てっきり茉央さんが運んでくれたものだとばかり思っていたので…」


「いえいえ。そんなに謝らないでください。お嬢様のお友達ですから。今後ともよろしくお願いします」


お互いに頭を下げあった。茉央さんの執事はとても紳士な方で、丁寧な対応に驚いていた。


『じゃあ…〇〇君。またね』


手を振る茉央さんを見送って僕はちょっとだけ遠回りをして家に帰ることにした。


ぽっかり空いた心を埋めるには少し時間が欲しいから。


思い出を振り返りながら、帰路へと向かった。


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