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青春物語⑤

"ごめん"

"彼女がいるんだ"

齋藤君に告げられた瞬間

自転車の後ろの席から飛び降りて

とにかく走った

呼び止められたような気がしたけど

無視して走った

家に到着してすぐに部屋へと向かう

息が詰まって苦しいけど

今はそれどころじゃない

告白が失敗した事実から

目を背けたくて

今はただ…



「咲月お待たせ」

「遅いよ…」

息を切らしているから

走ってきたんだろう

「めっちゃ冷えた」

「どうしてくれんの?」

なんてちょっと意地悪してみたり

「ごめんて」

「ならこれで許してくれる?」

手を繋ぐだけかと思ったら

すっぽり胸の中に収まる

「…ちょっと調子乗りすぎ」

「ごめん」

「でもあったかいでしょ?」

口から文句は出るけど

本当はめちゃくちゃ嬉しい

寒空の下

二人だけの空間に暖を感じる

そう井上君と出会ったのは約半年前のこと



友達たちとカラオケに来ていた

他校の男子も集まり

皆んな楽しそうな顔をしているが

私は端っこの方で

雰囲気についていけずにいた

「隣いいですか?」

話しかけられたことに驚いて睨んでしまったかも

「そんな怖がらないでくださいよ」

「別に襲うわけじゃないから」

周りの歌声が聞こえないぐらい笑われる

「違います…」

「ちょっとびっくりしたんです…」

この女慣れした感じがすごい嫌い

だからもう一回思いっきり睨んでやった

「また睨まれちゃった」

「いいね」

「もしよかったら連絡先交換しない?」

傷心中の私に

土足で家を荒らされてるみたいな感覚

腹が立つんじゃなくて

むかついてしょうがない

「…嫌です」

「なんで?」

「嫌っていったら嫌なんです」

「なんで?」

なんでなんでって子供じゃあるまいし

普通にうざい

「もういいです!」

「帰ります!」

机を両手で叩きその場から立ち去る

せっかく誘ってもらったのに

変な空気にしてしまったから

あとで友達には謝っておこう



次の日

校門を出たところに彼がいた

「昨日はごめんなさい」

今さら謝罪をされた所でなにもない

だから無視して目の前を通り過ぎる

「待って」

「明日…そこの駅で待ってる」

「もう一度いいから」

「話がしたい」

全く意味がわからない

なにを今さら話すことがあるのか

怒りを通り越して

呆れてしまう

もやもやしたまま

駅まで向かった



次の日

窓には雨粒

天候は最悪

外には出れない状況なので

今日は家でまったりと過ごすことにした

"明日そこの駅で待ってる"

居るわけないよ

だって大雨だもの



夕方になると雨は止み

母に暇しているならと

家の手伝いをしろと怒られてしまい

近所のスーパーに向かっている

「え!?まさかね…」

駅の前を通るとちょっとした人だからになっている

「ちょっとすいません」

人を掻き分け先にいたのは

「なんで…」

ずぶ濡れの彼が座っていた

「あ…やっと来た」

「どうして…」

「どうしてよ…」

「どうしても謝りたかったから」

「あなたの気持ちも考えず」

「しつこくしてしまってごめんなさい」

全身はずぶ濡れ

唇は真っ青

その言葉に嘘などないと

その姿から気持ちが伝わる

「私の方こそごめんなさい」

「ただの冷やかしかと思っていたから」

「立てる?」

今にも倒れそうな彼を支える

この時齋藤君に助けられた時のことを思い出しながら

家まで向かった



「なに笑ってんの?」

「いやなんかね」

「出会った頃のこと思い出してさ」

握っていた手に暖かさを感じ

そっと唇を重ねた

出会った頃は軽い人だっと思っていたけど

今は違う

だからこれからもただ側にいてください

今度は目を見て

もう一度唇を重ねた。

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