恥ずかしいサッカーの話
【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】
Jリーグが人気である。かく言う僕も水曜日と土曜日にはなかなか仕事が手につかない。
一昔前の日本リーグに比べると格段に動きもいいし、個人技のレベルも上がっている。だからこそ見ていても楽しいのだろう。
ミスプレーはあっても恥ずかしくなるようなプレーはほとんど見掛けない。
先日、アジアきってのディフェンスといわれる横浜マリノスの井原が自殺点を入れた時、さすがに自分でも恥ずかしそうな顔をしていたのが印象的だった。
クリアし損ねたボールが自陣のゴールに入ってしまうのを自殺点と呼ぶが、あれはしかたのないことだ、と解説の人も言う。ぎりぎりまで守り切ろうとした結果だからだ。しかし、いくらそう言われても自殺点を入れた本人としてはかなり恥ずかしいものには違いない。
ほかに恥ずかしいプレーといえば空振りがある。
野球の空振りはなぜかあまり恥ずかしくない。狙ってましたね、などと言われたり、思い切りのいいスイングですね、などと逆にほめられたりすることもある。サッカーはボールが大きいだけに恥ずかしい。蹴り損ねたりしただけでもかなりなさけないものだ。
しかし、おそらく世界一恥ずかしいプレーは、ボールの代わりに自分の軸足を蹴ってしまうことだろう。もちろんJリーグにそんなマヌケがいるはずがない。高校時代に目撃したプレーである。
県立新発田高校サッカー同好会がつくられたのはもう二十年以上も昔。僕が入学した年のことだ。
一年生だけでレギュラーチームをつくり、僕らは毎日ボールを蹴っていた。
グラウンドの割り当てもないのでグラウンドの隅の草をむしって整地した。部屋ももらえなかったから、廊下で着替えたりしていた。
練習中のミニゲームで、チームメートのTが足首を抱えて転げ回った時には、一瞬何が起こったのか分からなかった。自分の足を思い切り蹴ってしまったのだと知って、僕らはその場でしばらく笑い転げた。
しかし人の事を笑ってばかりもいられなかった。ゴールキーパーのゴールキックは決してハーフラインを越えることができなかった。自殺点だけなら得点王のディフェンスがいた。
かく言う僕は、今で言えばワントップのポストプレーヤー。つまりセンターフォワードだったのだが、ゴール真ん前の完全フリーのシュートを外す達人だった。ほとんど芸術的に外した。ゴール前のホームラン王とも呼ばれた。
ペレや釜本が現役でプレーしていたころだ。県内にサッカー部のある学校はまだ少なく、ましてできたばかりの同好会だから、対外試合もままならなかった。しかし僕らは確実に毎日ボールを蹴っていたと思う。
僕の知っているサッカーは、たぶん、Jリーグのサッカーとは別物のスポーツかと思われるくらい、恥ずかしいサッカーである。やっていたことすら人に言いたくない。
しかし今でもサッカーを見ていて胸が痛くなる瞬間がある。グラウンドの土のにおいや空の広さなどふと思い出すときだ。
それこそが僕のよく知っているサッカーかもしれない。
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