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出会い 好奇心が連れてくる

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】

 はじめまして、のあいさつほど難しいものはない。いろんな仕事をしている都合上、初めての人に会うことは多い。しかし、たいていの場合、何から話していいのかわからず、困ってしまうのだ。
 多分さしさわりのないことから話すべきなのだろうとは思う。いきなり、顔が大きいですね、などと言っては失礼だし、実は最近胃腸の調子が悪くて、おまけにカードローンが払えないんです。などと悩みをうちあけるわけにもいかない。寒いですね。というのもやめようと思っている。冬ですから、と返されたら後がないからだ。そういう時節のあいさつというのは、おおかた、しりとりでいきなり、”ん”がついてしまうようなものだ。言ってしまった後で後悔する。会話が続きそうのない会話を多分あいさつと呼ぶのかも知れないとふと思う。

 じゃ、なんで人はそんなものを交わすのか。昔はたぶん敵意のない事を示す合言葉みたいなものだったのかも。「山」に「川」、「いい天気ですね」に「そうですね」である。別に根拠はない。仮に根拠があったにせよ、実生活に役立つものではない。問題は、はじめて会う人とどうすればうちとけあうか、だ。

 名刺はどうだろう。あれは便利だ。変わった名前を持っていようものなら、しめたもの。私こういう者です。ほう、賀茂の橋コアラさんですか。変わったお名前ですね。すると、もしかしてお生まれはオーストラリアですか。おう、やはりそうでしたか。うちの祖母もあの辺で、クロコダイルを獲ってた事がありましてねえ、などと会話が弾むこともある。僕の場合、「関口さんですか。お父さんはヒロシですか。はっはっはっ」などとこちらが笑えもしないことを言われるのがせいぜいだが。
 たとえば、僕が以前作った名刺にはラクダの絵がはいっていた。紙も少し変わったものを使った。すると、この絵かわいいですね。自分で描いたんですか。と、絵に興味のある人は言ってくれた。編集をやっている人や、デザイナーなどは、この紙は珍しいですね。とか、結構高いんですよね、この紙。などと反応してくれた。当たり前の事だが、名刺に限らず、個性のないものには反応しようがない。逆に自分の興味のあることをなんらかの形で発信していれば、反応してくれる人は必ずいるはずだと思う。

 我ながら、好奇心だけは旺盛(おうせい)だ。おかげで寂しくはない毎日が送れているし、普通じゃ知り合えない、いろんな人たちに会う事ができた。つまり、好奇心の量だけ、いろんなものはやってくるにちがいないと僕は思う。
 ただし、好奇心というのは、珍しいものにだけ向けられるわけではない。ちょっとしたものでも、いや、ちょっとしたものこそ実はもっとも面白いのである。中には真実を含んでいるものもある。その話は次回から。
 というわけで、はじめまして。なるべくリラックスしてどうぞ。僕もそうします。

関口コメント:
地元の新聞、新潟日報から連載の話をいただいた時、躊躇はなかったのか記憶に残っていない。これが連載第一回目の文章。とにかく当時、来る仕事は断らずにすべて引き受けていた気がする。それが良かったのかどうなのか。とにかく文章は残ったのである。

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