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百合子

掃除当番の最終確認

〝うちの事情〟を知っている子の中には、すごく意地悪な子が何人か居た。

百合子。
ある日の掃除当番の時、いつものように並んで最終点検した後に、百合子が『あ!今日はもう一つ確認がある!この中でお母さんがいる人手を挙げて!』と突然みんなに聞いた。突然に見えたけど、後から考えればあれは全て準備していたんだろう。
不思議そうな顔をしながらも全員手を挙げた。
 私はその意味のない〝確認〟が苦しくて悲しくて恥ずかしくて下を向いていた。その姿を見ながら百合子は、『あ、そっか!亜里奈ちゃんはお母さん居ないからねぇ』と言った。
男子のほうから『え、そうなの?』とか『なに、これ』とかヒソヒソと聞こえきた。

(そんなことどうでもいい。早く帰りたい。)
なのに、百合子はすかさず『じゃーお父さんが居ない人ー?』と聞く。
私の子ども時代はシングルはほとんどいなかったし、少なくともその掃除当番は全員両親が揃っていた。それだって事前に確認しての質問だったんだろう。身動きが取れず下を向いていた私以外全員がまた手を挙げた。
 その瞬間、『え!!亜里奈ちゃんお父さんも居ないの?!』と大袈裟に言った。(なわけないだろ!昨日の夜だってアンタの所に2人で行ったんだから!!)と睨み返して手を挙げた。
『あー!良かったー!だよね、お父さんは居るよね?心配しちゃった〜』
…確かこんな感じだったと思う。

百合子は、親がやってる食堂の一人娘だった。家が近かったからか、転校した時に学校から紹介され、まさに前日も夕食を食べに行ったばかりだった。
 父親は百合子の両親を信頼していたから、まさか私がこんな目に遭っているなんて知らなかったけど。

髪結い

髪が伸び始めた頃、百合子は『たまには二つに結んだら?』と言ってきた。
自分では出来ないと言うと、『亜里奈ちゃんは器用だから大丈夫だよ!』と言った。だから翌日私が出来るやり方で二つ結びをして登校した。
 案の定、百合子はみんなの前で『亜里奈ちゃん、後ろがガタガタだよー!よくこんなんで来たねー。みんな見てー!おかしいよね?やっぱりお母さんが居ないと大変なんだねー』と私をイジり楽しんでいるようだった。

学校で使う物は母親が作るのが当たり前だった時代、私の場合、図工で使う腕カバーは工業用作業服専門店で用意した。
友達のは可愛い花柄やキャラクター柄で長さもピッタリなのに、私のは黒い大人用だから肘よりずっと上まであって、さすがに先生からも『長すぎるから輪ゴムで止めましょう』と言われて調整された。
 図工バッグも家庭科の裁縫箱も絵の具セットも学校指定の物を買った事がなくて、家にある物を寄せ集めて持って行った。全ては父親の『これで充分』という判断だったけど、要はお金が無いから買いません。買えません。ということだ。
だから、いつも私はどこが違和感のある子だっただろうし、百合子自身が周りに劣等感があったようだから、私みたいな存在はちょうど良い憂さ晴らしになったんだと思う。

結局こんな嫌がらせは私が転校するまで続き、みんなは別れ際の最後の言い訳なのか、『あとから何かされるのが怖くて、百合子には反論出来なかった』と言っていた。

あの時から私は百合子と名前に嫌な印象を持つようになってしまったし、百合の花が嫌いになった。

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