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無能左遷丸の転職記(1) 子会社への左遷

 この記事は大企業にしがみつく一人の研究者が出向し、転籍決定の果てに転職するまでの体験談です。2年と4ヶ月ほどの長めの体験談なので、7,8回に分けて投稿予定です。

 ちょうど3年前、2020年3月初旬に部長から一本の電話があった。2年間の出向の辞令だ。以前、課長から大学の専攻分野についてなぜか面談で聞かれていたので、多少の心構えはできていたが、問題は出向先と業務内容であった。

 行き先はH社、全く関わりのない会社だ。半導体検査用の電子顕微鏡の開発サポートをしてくれとのことだが、半導体も電子顕微鏡も全く知らない。出向は4/1付とのことなので、一ヶ月もない。ブラック企業に未経験エンジニアを無理やり入れてトラブルになる派遣業者と大差ない気がするが、断る権利もなさそうなので引き受けることになった。
(未経験エンジニアも一応エンジニアやるという名目で本人は来ているはずなので、更にひどい案件という話もある)
 一番懸念していたのは勤務場所だ。H社に行った同期が山口に飛ばされていたのを思い出して戦々恐々としていたが、流石に自宅から数駅で通える範囲であったので、ひとまず安堵。

 かなり唐突な出向辞令であったものの、流石に4/1にいきなり出向いてご挨拶というわけにもいかないとのことだ。3月中旬にビデオ会議での顔合わせという運びになった。ただ、この時点からすでに歯車が狂っていたようだ。
課長「出向先の連絡は来ていないので、出向先からの連絡待ちでお願いします」
人事の資料「出向先の電話番号や氏名等は、上司の方から出向者に連絡する事となっています。」
誰がボールを持っているのか分からず放置されて3月中旬、流石に誰かが忘れているのだと思って課長に相談。結局、部長だけが連絡先を知っていて、関係者全員が他の誰かが通達するものだと思いこんでいたとのことだ。出向する本人が何故日程調整しているのだろう...?

 いよいよ初顔合わせ。部長は結構堅い人なのでスーツ着用の指示。今の研究分野や大学で学んだ技術分野を話し、出向先の場所や新棟紹介など当たり障りのない話をしていた。ただ、仕事内容については私が専門外であるためか、はたまた外の人間に話せないためか、あまり理解ができなかった。
 出向までの経緯はこれだけのことであり、淡々と進んでいった。ただ、当人の心情は別である。

 部長からの辞令電話が終わった後すぐに感じたことは、現在の仕事から手を引くことへの抵抗感だ。入社から今までエネルギー系の開発に従事していたものを、理由も不明瞭なまま取り上げられたので、当然といえば当然である。
 だが、その後に芽生えたのは、(そもそも今の仕事が最適だというのは正しいのだろうか?)という一歩引いた考えであった。これが、私の出向と、転職活動の始まりである。

 その日のうちに私はビズリーチに登録し、5年間に及ぶキャリアの棚卸しを始めていった。実際問題、研究所に5年いたとはいえコーディング、リスク評価や特許等、色々と手を出していたので内容自体は困らなかった。しかしながらマネジメント経験や顧客対応等の経験がないという研究所に特有の弱みもあることに気づいた。
 ふと、H社への出向の話を思い出す。転職に必要な経験とスキルを2年かけて業務の中で身につけていけば、色々丸くおさまるのではないだろうか。この決断が不思議な出向への幕開けであった。


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