どの子

 かわいい女の子を見かけた。今日。
 思わずびっくりしてしまって、通り過ぎた直後に鋭く首を捻って後ろを向く。後ろ姿もかわいい。でも、あれ、どの子があの子だ?
 たしかショートカットで、白い服を着てて、あれ、スカートだっけそれともパンツ?シャツだっけパーカーだっけワンピースだっけ?
 めがねはかけてなかったはず。あれ、帽子かぶってた気がするな。待って、ならほんとにショートカットだっけ。
 思い出せ、頑張れ、また会うかもしれないし、その時は話しかけるんだ。
 おいお前、こんな公衆の面前で目を閉じて眉を顰めるな。変なやつだと思われるぞ、もしかしたら職務質問されるかも。大丈夫、悪いことしてないから。でも待てよ?こんなにあの子のこと考えるのは罪じゃないか?
 いや大丈夫。僕は悪くない。あの子のかわいさが罪なんだ。僕はあくまで被害者だ。
 だからさっきも言っただろ、お前なにかを思い出そうとしたり、ものを考えたりすると顰め面になるんだ。もういい大人だよ、世間に恥を晒しちゃお母さんが悲しむぜ。
 しかしまあ、かわいい女の子だった。もう一度会いたいな。かわいいっていうよりかっこいいって感じかもな。わりにスポーティな格好してたし。結構日焼けもしてた。サッカーでもやってるのかな。野球やってて欲しいな、巨人ファンならなおのことよし。
 もう遠くに行っちゃったかな。もう一度後ろを振り返る。
 あ、今おむすび屋に並んでるあの子、あの子じゃないか?
 少し小さめのTシャツにハーフパンツ。履きこんだサンダルは少し黒ずんでいる。つばの曲がったベースボールキャップを被って、白いイヤホンをつけてスマホをいじってる。画面を見るために顔は下向き、でも横顔はしっかり見える。気の強そうな目だな。ちょっとつり目。あ、顔上げた、あの子の順番かな。いい笑顔してるな。
 いま電柱にもたれかかって斜め上向いてる女の子、あの子もかわいいな。なんにも考えてなさそう。雲を眺めて甘そうだなあとか思ってそうな感じ。真っ白な肌、ちょっとそばかすがあるかな。白いガーゼ地のシャツをふんわり着て、それを濃紺のスキニーでギュッと縛って、黒いコンバースを履いてる。麦わら帽子を被って川沿いを歩いてほしいな。ミュージックビデオみたいな感じで、風が強く吹いている初夏。飛び石でしゃがんで上目遣いのカメラ目線。ちょっと妄想がすぎるな。AVの導入みたいだし。デビュー作の。
 あの子かなあ、さっきすれ違った女の子。どの子なんだろう。どの子でもいいか。
 

生きるために使う