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トライアル自転車の整備について

私が自転車屋でアルバイトを始めたのが15歳の時で、他のアルバイトと並行したりもしたけれど、大学卒業まで約7年間在籍。その後は自転車と関係ない仕事に就くも、結局は自転車業界に戻って来てしまいお店まで開業。そんな私は足かけではあるものの、自転車業界に20年以上漂っている状態にあります。

最初はハンドルが交換できる事すら知らなかった私ですが、アルバイトを始めて一般車の組立整備から修理も覚えて、スポーツ車も基本的な事はできるようになりました。今ではトライアルが中心になってしまったので、最新のコンポや規格には疎いですが、一般車の修理やスポーツ車の整備・修理などは「基本的な部分」くらいであれば対応できる程度の能力はあると思っています。一般車でも法改正などで微妙に仕様が変わったりするので、無法地帯だった頃に比べると正確な知識と手順とを覚えておく必要があります。どの世界でも同じですが、「専門分野」というものがありますから、私はどうしてもトライアルが専門だという事になってしまいますね。そんな訳で今回は、トライアルの整備・修理という部分についてお話しようかなと思います。

一般車(ママチャリ)やMTB、ロードバイクといった基本的な自転車整備ができる整備士でも、トラ車に関しては恐らく「未知の分野」ですので自信を持って「トラ車も別に他の自転車と同じですから組立整備できます」と答えることはできないはずです。もしもトラ車を扱った事が無いのにも関わらず「問題ありません。お任せください!」と即答する整備士だった場合、あくまで私の意見ですがそのお店で整備をお願いするのは危ないかと思います。「知らない事を知らないと言えない整備士たち」は大勢いるので、医者と同じで専門のお店や整備士にお願いしましょう。

話が逸れますが、数年前に心臓を患って救急車で運ばれた際に、当直の先生が眼科の先生で「私、眼医者なので循環器は専門ではないからまたすぐに専門医に診てもらって下さい」と言われた事があります。とても誠実な医者だと感じました。医者にも飲食店にも専門が存在しますので、やはり得意としている場所にお願いした方が双方にとって有益かと思います。

話を戻します。

ネットでトラ車を扱っているお店が無いか探すことがたまにあるのですが、(できればお客さんの住まいから近いお店が便利だと思うので)ブログやSNS等で過去に組立整備をしたトラ車の記事を見かけることがあります。三者三様ですが、半分以上が「珍しい車両ですが、他の自転車と何ら変わらないので組立は簡単でした」というあっさりとした言葉で片付けられていました。確かに変速機もサスペンションも無いので、形にするという点では簡単にできると感じてしまうのかもしれません。しかしトラ車は自転車整備の常識を軽々と超える場所に存在しているので、そのトラ車が納車後に特段問題なく使い続けられるクオリティになっているかどうか?という視点では、恐らく「NO」だと思います。

ちなみに私はサスペンションのOHや整備はできません。ロードバイクのポジション出しもできません。バーテープに至っては下手くそすぎて基本的にお断りしています。仕上がりが悪すぎるのでお客さんに申し訳なさすぎます。できないこと、苦手な分野は「できません・苦手です」とちゃんとお伝えすることが、お客さんに対しての誠意だと思っています。

トライアル用の自転車は、基本的には一般的な規格のパーツを使っています。例えばハンドルやディスクブレーキなどはMTBと同じ規格です。ヘッドパーツも一般流通している規格のモノで対応できます。ペダルも9/16インチなので、これも一般的なサイズですね。問題は「使い方を想定して組み立てる」「精度をできるだけ追及する」「専用パーツが存在するので持っていないとちゃんと仕上がらない」という部分です。

「使い方の想定」に関しては、主にセッティングになりますので経験値が必要になります。トラ車はステムやハンドルが独特の形をしているので、そのセッティングは戸惑うでしょう。また、相当自転車に無理をさせる乗り方をしますから、各部の「規定トルク」も少し勝手が違います。ステムの規定トルクをメーカー指定通りに組んだらハンドルが回ってしまう。なんて事も日常茶飯事。実際に自分でも乗らないと分からない部分も多いですし、たくさん触ってこないと分からないことだらけです。これは他の自転車も同じですね。

「精度の追求」は下処理の重要性です。すべてのネジは再タップをして、BBやヘッド、ディスク台座はフェイシングを行います。完成車の場合、一度すべてのパーツを取り外さないといけませんから、かなり面倒な作業になります。MTBなどでは一部、高級ラインの車両は工場で既にフェイシングが行われているモノもありますが、トラ車は基本的にお店でやらなければなりません。フェイシング工具は高いですし、作業としてもかなり大変なのでやらずに済めばどんなに楽な事か・・・とは思いますが、必要不可欠な作業なので私は必ず行います。下処理をちゃんと行った車両は使い心地も変わりますし、何より各パーツの寿命に影響しますから安全面でも必須項目ですね。

「専用パーツを持っている必要がある」のは、工具も然りですが微調整用のスペーサーや、ディスクブレーキの修理用スモールパーツが必要になる場面に遭遇しやすい。という点から常に在庫を持っている必要があるのです。これもまた、他の車両でも同じですが専門店を謳っている以上は「持ってません・できません」とはできるだけ言いたくないもの。ちゃんと想定をしておいて、専用パーツを確保しておく必要があります。ただし、トライアルの場合は圧倒的に流通が少なく手に入りにくいので、在庫切れになった時に「来週には入荷しますのでご安心ください」と言えないのが辛いところ。いつの間にかメーカーが倒産していたり、その規格の部品の製造が終わってしまっていたりするので、代替品を探すのでも一苦労です。それこそ世界中探しますが、見つけても「日本向けには販売していません」と簡単に断られることもしばしば。

うーん、総括すると「トライアル人口の少なさと、流通の少なさ」が一番の要因のようですね・・・もっとトライアルが一般的になり、大手代理店などが専用パーツや車両を扱うようになれば、裾野が広がりますね。願わくば日本でトラ車を製造・販売してくれるメーカーが出てくれれば良いのですが、コスト的に合わないでしょう。後はもっと取り扱う販売店が増えて欲しいですね。最低でも各都市部には必ず取り扱っているお店があると、ライダーは増えていくのではないかなと感じています。

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