【ライブ・レビュー】アンダーグラウンド・シーンの現場から⑨ 佐藤綾音/遠藤ふみ デュオ
2023年8月21日(月)
会場 水道橋 「Ftarri」
佐藤綾音 (テナーサックス、フルート、バスクラリネット、パーカッション、エフェクター、etc.)
遠藤ふみ (ピアノ, 鍵盤ハーモニカ)
ファーストセットは自分のコンセプトを提示しつつ互いの意図を探るような展開が続く。佐藤がサックスの空気音だけで木枯らしのような音を出したり、ルーパーやエフェクターを通していろいろな技を出したが、ピアノは自分の軸を守り、乗ってこなかったです。それは、水面に墨汁を一滴垂らし、その拡散のありようを見守っているがごとき演奏。その垂らし方、揺すり方でにじみ度合いが変わる。出すのは童謡のようにシンプルな音で、不協和音なども使わず、リリカルな美しさがあるようでいて、そこからも距離を置き、耽美な方向にはまったく行かない。淡々と、淡彩の極み。
セカンドセットは佐藤がバスクラで静かに潜航し、遠藤の動きに浸透を図る。これが面白かったです。ここまで細かい動きでインタープレイをするのは聴いたことがない。相手の小さな声に耳を澄ます注意力と、相手に安易に迎合しない意志力が必要とされる。そして決して盛り上げない。歌わない。小説でいうと、アンチロマン。丁々発止のやり取りではなく、干渉波みたいな「現象」の音連れを待つ。
河崎純やノブナガケンのような達人は、小さい音でも「念」が籠っており、奏者の生命力や意思が隅々までみなぎっている。そういうものとはこれは違い、コントロールはするんだけど、あまり音を掌握しすぎないようにしている。たこ揚げみたいに手元には「遊び」が少しある。しいて言えば、小杉武久が言うところの「音の釣り」の境地ですかね。
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