どのようにしてAnkiで多義語を覚えるか
英単語をAnkiで覚える場合、まずは第一義から覚えていく人がほとんどかと思われます。しかしさらにその単語の理解を深めたい場合、様々な意味を覚える必要が出てくるでしょう。そして往々にして第二義、第三義の意味が英検などのテストで問われたりします。例えばlatitudeという単語は、「緯度」だけでなく「自由・裁量」のような意味があります(実際「自由・裁量」の意味を問う問題が英検一級で出たことがあります)。そのような単語の意味を思い出そうとするとき、最もやってはいけないことは「リスト形式で思い出そうとする」ということです。たとえば表面にlatitudeと書かれたカードを見たときに、
のようなアプローチの仕方をすることは絶対にやめるべき、ということです。今回はこのような多義語をどのように効率よくAnkiで覚えていくかを解説していきます。
リスト形式で単語の意味を思い出そうとしてはいけない理由
Dr Piotr Wozniakという人が書いたEffective learning: Twenty rules of formulating knowledge(日本語訳)という効率的に学習するためのルールについて書かれた記事があります。リスト形式で意味を思い出そうとしてはいけない理由は、そのルールの中の「最小情報原則を守るべし」「集合を避けよ」にあります。
カードの表面を見て、そこから想起すべきものはシンプルかつ唯一つのものであるべきです。これは私個人の経験ですが、Ankiを使いたての頃はこのようなルールを知らなかったため、ひどく苦労をしました。たとえばaddressという単語を思い出そうとするとき、「住所」「話しかける」「演説」「対処する」などを一度に思い出そうとしていたのです。当然すべてを思い出せることのほうが稀ですから、カードのEaseはどんどん下がっていき、失敗カード(Anki用語で言うところのleech)扱いになってしまいました。addressの「住所」という意味は思い出せているのに、「話しかける」を思い出せなかったがためにもう一度ボタンをクリックしなければいけなかったのです。上記サイトに書かれている、
はまさに私が経験したことと全く同じです。
単語の意味は文脈で定まる
そもそも単語というのは文脈があって初めてその意味を理解できます(固有名詞などは除く)。日本語でも「かける」という動詞を見たとき、「電話をかける」「服をかける」「3に2をかける」などのすべての「かける」の意味を思い出せと言われたら無茶な要求だと気づくでしょう。英語でも、表面にaddressとだけ書かれたカードを見て意味を想起するより、
というほうが容易に意味を想起しやすいです。このことを踏まえ、次の項目では実際にどのようなカードを作っていくとよいか考えていきます。まずそれにはノートとカードの違いから説明する必要があります。
ノートとカードの違い
Ankiのデフォルトの設定ではノート一つに付き一つのカードしか無いため、ノートとカードの区別がついている人はあまり居ないように思われるので、軽く説明をします。
ノートというのは、カードをくるむ包みのようなものです。これはあまり知られていないのですが、Ankiは一つのノートにつき、複数のカードを作ることができます。
ノートには各カードに共通の情報(例えば音声データやタグ)などを記載し、各カードにはそれぞれ表面に意味を想起させるための文章、裏面に意味を記載します。
イメージとしては、このようなノートとカードを作成することになります。当然、デフォルトの設定のまま、カード一つだけのノートをどんどん増やしていってもいいのですが、こちらの方法のほうがずっとカード管理が楽になりますし、Ankiの設計理念に沿ったカードの作り方と言えます。
具体的な設定方法
では具体的にAnkiでどのように設定をしていくか見ていきます。(画像では、以前私が書いた記事の設定に基づき説明していきますが、デフォルト設定から大きな変更は無いので、すでにAnkiを利用している方は適宜読み替えていただくと幸いです。質問があれば受け付けます)
検索画面のフィールドをクリック
今回はとりあえずカードを一枚追加することにします。新規に「カード1-表」「カード1-裏」「カード2-表」「カード2-裏」と名前をつけたフィールドを作成して保存します(名前はわかりやすければお好きなもので)。
カードをクリックします
出てきた画面のの表面のテンプレートに以下のコードを記入
{{表面}}{{音声}}
{{#カード1-表}}
<hr>
{{カード1-表}}
{{/カード1-表}}
「裏面のテンプレート」に以下のコードを記入
{{FrontSide}}
<hr id=answer>
<div class="image">
{{画像}}
</div>
{{^カード1-表}}
{{裏面}}
{{/カード1-表}}
{{カード1-裏}}
オプションをクリック
「カードタイプを追加」をクリック
「はい」をクリック
「表面のテンプレート」に以下のコードを記入
{{#カード2-表}}
{{表面}}{{音声}}
<hr>
{{カード2-表}}
{{/カード2-表}}
「裏面のテンプレート」に以下のコードを記入
{{FrontSide}}
<hr id=answer>
<div class="image">
{{画像}}
</div>
{{カード2-裏}}
「保存」をクリック
以上で設定は終わりです。ためしに新規に追加したフィールドに適当な文字列を記入して、カードが新規に作られるか確認してみてください。
例えばこのようなものは、
というカードと、
というカードの2つが生成されるはずです。
3つ目のカードを追加する場合も、2枚めを追加したときと同様にフィールドを追加し、カードのテンプレートを編集すればよいです。
ターゲットになっている単語を強調するため、検索画面の各種ボタンで文字を太字にしたり色を付けたりすると良いでしょう。
どの例文を用いるべきか
例文はできるだけ短く、意味を想起すべき単語以外は平易な表現で書かれていることが望ましいです。無料で利用できるもので個人的なおすすめはLongmanとOxford Advanced Learner's Dictionaryです。どちらも学習者向けに例文の単語レベルが抑えられており、また文章も短いことが多いので、表面に使う例文としては最適です。とくにLongmanは英和辞典も無料で利用できるので、裏面に日本語訳を載せたい人はそちらを利用するのがおすすめです。Longmanの日本語の定義は英辞郎やWeblioなどより圧倒的に質が高いです。
どの意味を覚えるべきか
これは非常に難しい問題です。市販の単語帳などを使っている場合はそこに記載されている意味を優先して覚えればいいと思いますが、単に単語リストだけ持っていて、それをAnkiで覚えたいと思っている場合、なにから覚えていけばいいかというのは頭を悩ませる問題です。上記の辞書サイトは学習者向けにある程度定義の数を絞ってありますが、それでも多いです。個人的には、Oxford Advanced Learner's Dictionaryに記載されているCEFRのラベル(A1-C2)を参考にしています。そのラベルが付いているものは出現頻度が高い(あるいはそのレベルに到達したいと考える学習者には必須の語彙)であると考えられるので、一定の目安にはなります。TOEIC900点や英検一級を目指している方はまずC1までは抑えておくといいのではないかと思います。また、COCAでは品詞ごとに出現頻度のレベル分けがされているので、それも目安にはなります。
おわりに
今回はAnkiで多義語をどのように扱っていくかをテーマに書きました。手作業でカードを作っていく作業は少し面倒ですが、その面倒さはたくさんの意味を一度に思いだそうとする精神的きつさよりは遥かにマシですし、レビュー回数が減るため長い目で見ると時間の短縮にもつながっているはずです。今回は触れませんでしたが、表面に例文を配置することで、コロケーションを覚えるのにも役に立ちます。多義語に対するアプローチの仕方はいろいろあるとは思いますが、今回の記事が参考になれば幸いです。何か質問があればお気軽にどうぞ :)
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