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小説

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#ショートショート

水仙花の夜

座敷から座敷へ行くうちに皆の着物が黒い事に気がついた  天井からぶら下がった電球が畳上に茶箪笥の影を落としている。 太い柱にぶら下がる時計の振り子の影が右に左に揺れて 畳の上を行ったり来たりしている 座敷を先にまた座敷があった  畳の上に硝子の瓶に入った水仙花が水に沈んでいる 隣座敷で時計が鳴り始めた 眼を上げた 水仙花の入った硝子瓶は座敷一杯にあった これを葬る事にこの時初めて気がついた

幻花燈ーまぼろしのはなのともしびー

good to the taste蒸篭の縁にからしを塗り添えて肉まんを食べていたら 同じ様に蒸篭に入って肉まんの向うに控えていたあんまんが「たまにはおれにもからしを塗ってくれ」と云う 肉まんをつまむ手を休めて あんまんに眼をやった 「くれ、くれ」 「あんこにからしを塗って食う者があるか」 「たまにはいいだろうよ」 「おまえはいいだろうが、おれの都合がよくない」 「ちょっと蒸篭の縁に塗ってくれよ。肉まんにやってやれて、なんでおれにはやってくれないんだよ」 「手間の