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小説

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#早稲田文学

【小説】不二山頂滞在記【54枚】

一 「パ―ト募集 巫女 十八~二十一才迄」  平衡(へいこう)を失した筆蹟の求人広告が神社の鳥居に貼られていた。それに目を止めたおれはしぜんと、その上に張られていたチラシにも目を向けた。 「不二山登頂者募集 急募 日給五千円」  なんだろう。これ。  詳細は社務所までというので、のこのこ行ってみると、境内は昼間三十九度あったとは思えないほど涼しい。五百円とか千円とかいった値段のついたお守り見本の向うにジャージ姿の男がいた。  話しかける前にその男がこう勧誘してきた。 「そこ

【小説】蛸親爺(たこおやじ)【168枚】

その一居酒屋の前の往来、路のまんなかで蛸が酔っている。 「たーこたーこ、たーこたーこ」と地面を手で叩いて拍子をつけながら、 蛸が声高に唄う。 花風の吹く夕、往来に面して油染みた暖簾を出す居酒屋の、店先にはビールケースが積まれ、立て看板、一升壜、牡蠣殻が並ぶ。朱塗りの行燈の明りの先に、蛸が八本ある足をだらりと伸ばし、腹を兼ねた頭を横様に倒しながら、墨吐き口を突き出して唄っている。 唄う合間に、「ういーっ」と一つ吐く。また唄う。それを繰り返す。行き交う人々は、『あれは何だ』とい