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【家庭用3Dプリンターでロボット相撲を作る】モーターを決める

モーターはロボットの最大出力を決める要素なので、とても重要です。
最大出力が対戦相手のロボットより高ければ、それだけ有利に戦えます。
例えば、スピードが相手ロボットと同じ場合はトルクで押し勝つことができますし、トルクが相手ロボットと同じ場合はスピードで圧倒することができます。

ロボット相撲のモーターに必要な特性

ロボット相撲は 3kg の重量制限があるので、出力のみを考えて大きく重いモーターを選んでしまうと、設計が成り立たちません。重量オーバーで大会に出場できない悲劇を避ける為にも、軽くて出力が大きいモーターが求められます。また、高い頻度で回転方向を切り替えたり、加減速を繰り返す激しい運転をするので、高い応答性と耐久性が必要です。

ブラシレスDCモーター

軽くて高出力のモーターといえばブラシレスDCモーターです。
モーター出力は巻き線の放熱性能とイコールなので、ステーター(モーターの固定側)に巻き線が配置されるブラシレスDCモーターは、巻き線の放熱性能が高く、小型で高出力になります。また、ローター(モーターの回転側)が軽くなるので応答性が高いです。(インナーローターの場合)
欠点といえば、回転を制御する回路が複雑になる点です。
ブラシレスDCモーターは、制御回路側で巻き線の電流を制御しないと回転しないので、ローターの回転角度を読み取って巻き線の電流を制御する複雑な回路が必要になります。

ブラシレスDCモーター使用上の注意

ブラシレスDCモーターは、同じ体積のブラシ付きDCモーターに比べて[定格出力]が高いですが、この[定格出力]とは[連続運転を続けた場合に放熱が追いつく最大の出力]である点に注意しなければなりません。
放熱能力が高いブラシレスDCモーターは、モーターの大きさに対して定格出力が高くなるので、小型のモーターを選定する場合が多いですが、小型故に熱容量が小さく、短時間でも放熱能力を超える運転をした場合に巻き線が過熱して破損しやすい特徴があります。この為、押し合いなどの過負荷が多いロボット相撲でブラシレスDCモーターを使用する場合は、回路側で電流を制限したり、機械的な保護機構を取り入れるなど、定格出力を超えない対策が必須です。ワンサイズ大きなモーターを選定して定格出力に余裕を持たせるのもよい選択かもしれません。

ブラシ付きDCモーター

内部で機械的に整流されるので、端子間に直流電流を流すだけで回転します。電流の向きを変えることで回転方向が制御できる為、ブラシレスDCモーターに比べて簡単な回路で制御できます。ローター側に巻き線があり、ブラシレスDCモーターに比べると放熱性能が低くなります。また、ローターが重くなるので、応答性は低くなります。
ロボット相撲によく使われるブラシ付きDCモーターは[コアレス巻線]というコア(鉄心)がない巻き線が使われています。コアがないとローターの重量が減る為、応答性がよくなります。
今回作るロボット相撲は[コアレス巻線のブラシ付きDCモーター]の中から選定します。

モーターの選定

ロボット相撲でよく使われている3つのモーターを比較します。
3つともMAXON社のコアレス巻線が使われているブラシ付きDCモーターです。

MAXON RE40(150W)

ロボット相撲で出力が最も大きい部類のモーターです。とにかく大出力なので、スピードとパワーを両立した強力なロボットを作ることができます。
モーターの重量が1個当たり480g(2個で960g)と重いので、使用する場合は他の部品に割り当てる重量を節約する必要があり、設計の自由度は低くなります。また、モーターが高出力になることで、減速機やバッテリー、モータードライバー(制御回路)も大型になります。
つまり、重く高価になるので、重量と予算オーバーに注意してください。

MAXON RE35(90W)

ロボット相撲で最も多く使われている(と思われる)モーターです。
RE40(150W)に比べると出力は低いですが、重量が1個当たり340g(2個で680g)と軽いので設計の自由度が高くなります。
多数のセンサーや制御回路を搭載して重量やスペースの制約が大きい自立型や、複雑な機構(アーム付き等)を搭載するロボットによく使われます。

MAXON DCX35L(80W/120W)

他2つのモーターより後に発売された比較的新しいモーターです。
注文時に各種カスタマイズが可能な点と、本体がステンレス製になっている点が特徴です。
出力は80Wと3つの中で一番小さいですが、これは本体がステンレス製で放熱性が悪いことが理由と思われます。特定の運転条件では約120Wになるようです。データシートを詳しく見ると、先に紹介した2つのモーターのちょうど中間の性能であると分かります。この為、RE35では出力が足りないが、RE40だと重すぎる場合の選択肢として有効です。
重量は1個当たり385g(2個で770g)になります。
モーターサイズがRE35と殆ど同じなので、RE35用に設計したロボットを少し改造すればDCX35Lに乗せ換えて高出力化することもできます。(RE35とDCX35Lは取付ねじのピッチが異なる)
今回は、ロボットの拡張性を考えて、このDCX35Lを選択します。

公称電圧の選定

MAXONモーターのデータシート(※)を見ると、同じモーターでも巻き線の違いで公称電圧の種類が多くあり、どれを選べばいいのか迷ってしまいます。そこで、公称電圧を変える影響について確認していきます。
※データシートは[Online Shop - maxon]と検索してWebページからご確認ください

公称電圧の低い巻き線

公称電圧の低い巻き線を選んだ場合、ラジコン用のバッテリーやモータードライバー、自動車用の12V/24V系の部品が利用できるので、制御系の部品の入手が楽になります。
巻き数が少なく線径が太い巻き線に変えることで低電圧・大電流タイプのモーターになるのですが、巻き線以外の部品(端子から整流子あたりの構造)が共通な為、これらの電流制限によって最大出力が制限されることがあるので注意が必要です。例えば、DCX35Lのデータシートに記載されている公称電圧12Vと24Vのモーターの最大連続電流を比較した場合、次のようになります。
 公称電圧12V:6.00A( 12 × 6.00 =   72.00[W])
 公称電圧24V:4.26A( 24 × 4.26 = 102.24[W])
この通り、同じモーターですが出力[W]が異なります。
電圧を半分にすると電流が2倍になるので、公称電圧12Vの最大連続電流は公称電圧24Vの2倍[8.52A(4.26×2)]になるはずですが、それより低い[6.00A]となっています。これは巻き線以外の部品の最大電流が[6.00A]に制限されている為だと考えられます。

公称電圧の高い巻き線

公称電圧を高くした場合、出力に対して電流が低くなり、配線や基板パターンを細くできるので小型化や軽量化に有効です。
問題点は、高電圧用のモータードライバーが必要になることです。高電圧に対応したモータードライバーは市販品が少なく入手が難しいので、ロボット相撲大会の参加者は自作していることが多いです。
ロボット相撲ではモーターを公称電圧の2倍近い電圧で運転することが多いので、例として公称電圧24Vのモーターを使用する場合、バッテリーは40~50V、モータードライバーは60~100V用が必要になると考えられます。
今回は公称電圧24Vのモーターを選定します。

補足:何故、公称電圧を超えて運転するのか

ロボット相撲では公称電圧を超える電圧でモーターを運転することが多いですが、これには明確な理由があります。

モーターは電圧と電流が比例しない

モーターは抵抗器のように[電圧を2倍にすれば電流も2倍になる]ことはありません。電圧を2倍にすると回転数が2倍になり、負荷トルクが2倍になると電流が2倍になります。

モーターを壊さないために

モーターには許容回転数(電圧)と許容電流(トルク)の2つの制限があり、どちらか1つでも超えると壊れてしまうので、この制限の範囲内で運転する必要があります。
許容回転数は、公称電圧時の無負荷回転数と比べて余裕があるので、この余裕分だげ公称電圧より高い電圧で運転しても問題ないことになります。(回転数を上げるとモーターの消耗は早くなります)
許容電流は、モーターが過熱するぎりぎりの電流なので、運転時の電流は許容電流に対して余裕を持たせる必要があります。モーターの発熱は、巻き線に流れる電流によって発生するので、回転数(電圧)を上げて負荷トルク(電流)を上げなければ、発熱は増えないことになります。(摩擦による発熱は無視します)この特性を利用することで、ロボット相撲の押し合いの過負荷でモーターが壊れる可能性を減らすことができます。

モーターを押し合いに強くする

公称電圧12Vのモーターを12Vと24Vで運転して同じ出力を得る場合について説明します。
 駆動電圧12V:12V × 10A = 120[W]
 駆動電圧24V:24V ×   5A = 120[W]
当たり前ですが、駆動電圧24Vは12Vの半分の電流で同じ120Wを出力することができます。尚、駆動電圧24Vは回転数が2倍になるので、減速比を2倍にして駆動電圧12Vと同じ回転数に調整するものとします。(減速機の効率は考えないものとします)
このモーターの許容電流を10Aとした場合、駆動電圧12Vは負荷が120Wより少しでも増えるとモーターが焼ける可能性がありますが、駆動電圧24Vの場合は許容電流まで5Aの余裕があり、負荷が少し増えても許容電流以下で収まります。また、駆動電圧24Vは減速比が2倍なので、許容電流10Aを流した場合のトルクが駆動電圧12Vの2倍になります。つまり、モーターを公称電圧で駆動するよりも、公称電圧より高い電圧で駆動して、減速比を高くしたほうが押し合いに強くなると言えます。
(注意:簡略化の為、電圧を2倍にしていますが、実際に2倍の電圧を加えると許容回転数の上限を超える可能性が高いので、データシートを確認してスペック内で運転してください。)

以上

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