見出し画像

1の街-とある砂漠の夢-《連作掌編》

初めて読まれる方はこちらからご覧ください(  . .)"


砂漠の真ん中に、古びた城がそびえ立っていました。その城は、かつては賑やかな居城でしたが、今では静寂に包まれています。城の周りにはそれ以外何も無く、一面に広がる砂の海がその壮大さを物語っています。

ある日、1人の少女がその城にたどり着きました。砂漠の果てを目指して旅をしていた少女は、城の美しい廃墟に心を奪われました。城の中に入ると、埃まみれの家具や、壁にかかった古い絵画が少女を迎えました。

奥へ進むと、1匹の猫が現れました。その猫はまるで少女を待っていたかのように、優雅に歩み寄りました。少女は猫に「あなたの名前は?」と尋ねましたが、猫はただ静かに見つめるだけでした。

不思議なことに、その猫は少女を城の一室へと導きました。その部屋には、美しい花々が咲き乱れていました。砂漠の中とは思えないほどの鮮やかな色彩が広がり、少女は驚きと感動で胸がいっぱいになりました。

猫はその部屋の中央にある大きな鏡の前で立ち止まりました。少女が鏡を覗き込むと、そこには自分の姿とともに、かつてこの城で暮らしていた人々の姿が映し出されました。彼らは笑顔で少女を見つめ、まるで歓迎しているかのようでした。

こうして、少女はその城で猫とともに過ごすことになりました。砂漠の孤独を癒すかのように、少女と猫は毎日を楽しく過ごしました。そして、城の花々は日々美しさを増し、砂漠に再び命の息吹をもたらしました。

少女と猫が紡ぐ物語は、やがて砂漠を訪れる旅人たちの間で語り継がれ、古びた城は再び賑やかな場所となっていったのです。


「その語り継がれた城こそが、ここなのですよ」
老婆は語る。


吟遊詩人の少女が山道を抜け、砂漠に来てから3日が立とうとしていた。そろそろ水が底をつきそうで、これは大変なことになった、とため息をついたその先に、その城はいきなり現れた。

不思議に思いながらも、足を踏み入れてみると、砂漠とは思えない心地よい風が吹き、甘い花の匂いが流れてきた。
(オアシスだ・・・)
砂漠に来てから、緑のコートを脱ぎ捨て鞄の中に閉まっていたその少女は、ほっと一息をついて木陰で休憩をすることにした。

「おや、旅人さんですかい?」
声の持ち主を探ると、老婆と1匹の黒猫が少女の目の前に居た。
老婆は冷たい水と、甘く香ばしい匂いのパンを少女に渡しながら、ここがどこであるかを語った。どうやらここは、あの有名な噂に聞く砂漠の城に間違いないらしい。

「城の中にお入り、旅の土産にあなたにも鏡をみせてあげよう」

少女は少し考えてから、

「ありがとう。でもなるべく早くこの砂漠から出たいんだ。行きたい場所があってね」

と老婆に言った。

「そうかい。それは残念だ。じゃあパンを食べたら気をつけて行くんだよ」

「ありがとう、さようなら」

少女は老婆に背を向けて歩き出した。老婆は少し寂しそうに少女を見ていたが、少女が甘い独特な匂いのするパンを、パン粉のように粉砕しサラサラと砂漠に撒くと、その粉と一緒に消えてなくなった。

「やっぱり」

踵を返すと、遠くに大きな鏡が見えた。

この城の正体は砂漠の魔物だ。甘い匂いで人をおびき寄せ、あたかもそこに城があるように幻覚を見せる。きっと城に入ったら、あの大きな鏡の中に吸い込まれて、二度と出ることは出来ない。その証拠に、砂漠の城の「噂」はあっても、「帰還者の旅の話」は聞いたことがない。
「あの甘いパンを食べたら、もう引き返せなかったかもしれない」
食欲を我慢した自分を褒めたたえながら、少女は砂漠を再び歩き始める。


大きな鏡の中では、老婆と黒猫が楽しそうにこちらを手招きしていた。


よろしければサポートお願いします( . .)" いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 今はipadが欲しくてお金をためています..