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10.ケニア AA

焙煎の回数も10回を超え、慣れた手付きで準備を始める。初心忘るべからず、とは言うものの、あの瞬間あの場所あの状況あの自分が心に抱いていたものを忘れずにいることは簡単ではない。それより今の自分が今こここの瞬間に思うことの方が大切なんだろう。今回は焼き終わりの見極めが難しい中煎りを目標に。気温は17℃、生豆の状態で重さは103g、前回のマンデリンと比べて欠点豆も少なく、さっとピッキングし、強めの中火で焼き始める。1ハゼが、6分20秒あたりから始める。重量級の格闘家のパンチの如くブチッと響く。パチッではなく、ブチッと。豆によって爆ぜる音が違うのは、水分量か温度かそれとも他に何かあるのだろうか。自分の身体を使って考え見出したことは自身の血肉となる。考えよ。9分あたりで落ち着き、10分20秒あたりから2ハゼが始まる。焼けていくスピードが早いので、焼きすぎないように目を凝らす。瞬きをする。色が変わる。瞬きをする。色が変わる。頭で考える。ここ。ザルに上げる。余熱で焙煎が進まないように、扇子でしっかり扇ぐ。頭で考えるより先に手が動く、までは程遠いけれど、頭で考えながら手を動かし続けていれば、自然に形になっていく。焙煎をすると、明日が来るのが楽しみになる。明日が来るのが待てなく、明日を迎えに行きたくなる。焙煎をするだけで。翌日、自分で焼いて自分で淹れて自分で飲んで自分で喜んだ。今までで、一番美味いと思う豆だった。味の輪郭がはっきりしていて、酸味が強くないオレンジのような果実味とフルーティーな香りがよかった。アフリカの珈琲は野生味があって好みだ。目標とする珈琲までは程遠いけれど、もっと美味い珈琲をつくりたい、というのは初心であり不変の思いなんだ。

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