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12.タンザニア・フルーツマウンテン

焼く、挽く、淹れる、飲む。黙々と、粛々と、淡々と。いつもと変わらない日常のようで、日々変わり続ける日常は、まるでそう珈琲のようだ。いつもと同じようにコンロ周りにアルミホイルを敷き、ピッキングし、タイマーをセットし、火をつける。気温20.7℃、強めの中火で、深煎りを目標に焼き始める。色の変化スピードが早く、まだ爆ぜてないのに1ハゼの音も聞こえたように感じて、慌てて火加減を調整する。強めたり、弱めたり、また強めたり。1ハゼが始まったのは8分あたりから。また火加減をいじったりしていると、10分あたりから2ハゼの音が聞こえたように感じた。1ハゼと2ハゼが同時に起こっている、なんて幻想を見ていたのだろうか。深い海に沈んだように、自分の感覚が失われる。感覚を失った人間にできることは、手を動かすことのみ。網を振り続ける。目を覚ますかのように、ピチッというきっと2ハゼであろう音が聞こえたのは、16分あたりから。目を覚まし、なんとか水面に浮上し酸素を肺に入れて、今度は自分の意思で深い海に潜る。暗い海をただひたすら彷徨い、光を見出すことができず、再び水面に浮上する。焼き終わりは18分30秒。迷いと悩みと不安が入り混じったような味。深海は暗く狭く冷たい。故に技術と経験と胆力が物を言う。未熟者であることを再確認し、また海に潜る。

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