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少年の国 第20話 通信ケーブル事件

ある日、数人の米兵と韓国軍の兵士が村に現れ、盗まれたケーブルを探し始めたのだ。兵士たちは村の家々に顔をだしては、盗んだケーブルを隠し持っているものを知らないかと尋ね歩いていた。

当然、僕の家にも兵士が訪ねて来た。家の入口で兵士とハンメが話をしているのを、僕は部屋のなかからこっそり盗み聞きしていた。

「どうやら、この村にも北のスパイが潜入しているようだ」

「スパイ?」

詳しくは聞き取れなかったが、ハンメは兵士としばらく話をした後に部屋に戻ってきた。

「ハンメ、スパイって?」

「海守なんだ、聞いていたのか?」

「うん」

「なんでも軍の通信のための線を切って盗んだ人がいるんだって、北のスパイだろうから気をつけるようにって」

「通信の線!」

(あの通信ケーブルだ!)

これは大変なことになったと子どもながらに思い、そっと窓から外を見た。そこには、銃を肩にかけて、険しい表情で村中の家々を探索し歩き回っている、米兵と韓国軍兵士の姿、それにおびえた様子の村人の姿があった。

「本当に大変だ、何とかしないと」

とは言っても、沢山の兵士が探し回る中、動くことはできず、僕はただ緊張しながら夜を待った。

夜も更けハンメが眠ったのを確認した僕は、あたりを見回しながら外へ出ると、盗んだケーブルのブランコがある鶴城公園へと走った。闇夜の公園についた僕は月明かりの下、恐る恐るブランコのある大木に近づいた。

「あれっ!ケーブルのブランコが無い!」

(兵士にみつかったのか!)そう思った瞬間、背後の暗がりから

「おい!」っと声が聞こえた。

僕の背筋がぞっと凍りついた。

「おい!」再び聞こえてきた声に、震えながらそっと振り返り、僕は「は~!」と声を出してその場に崩れ落ちた。

声の主は、龍大と永吉だった。

「海守のことを、呼びに行ってる余裕がなかったからな」

「ケーブルは?」僕はブランコがつるしてあった大木を指差し、小声で尋ねた。

「大丈夫だ、ケーブルならここにある」龍大はそう言うと、肩に担いだ大きな麻袋を指差した。

「無事だったのか、てっきり兵隊に見つかったのかとおもったよ」

「ああ、兵隊たちもここは探さなかったみたいだ」

「よかった~」僕はフッとため息をついた。

やがて僕たちは公園の裏山の奥にある秘密基地と称する、僕らの隠れ家に向かって歩き始めた。

秘密基地といっても、みんなでどこかから拾い集めた材料を積み上げて作ったみすぼらしい小屋だったが、そのころの僕たちにとってそこは、宝物と称するガラクタを大切に隠したり、仲間で過ごす快適な空間だった。

「こんな大事になるとは思わなかったな」

龍大は秘密基地の中でケーブルを下ろすと、その場にしゃがみ込んで腕組みをした。

「犯人は北のスパイだって、兵隊たち思っているみたいだぞ」

「まずいことになったな」

「ばれたらどうなるかな?」

永吉がおびえた表情でたずねた。

「スパイだと思われてるんだぞ、見つかったら間違いなく…」

龍大は右手で鉄砲の形をつくると、永吉にむかってバンと撃つ真似をした。

「銃殺!?」永吉が驚くと同時に、僕もぞっと震えあがった。

「とにかく、見つかる前にこいつを何とかしないと」

 さすがに今度は僕らも真剣だった。結局、僕らが出した結論は、ケーブルを田圃の脇の水路に沈ませ、上から石で押さえ込むことだった。川に流してしまうことも考えたが、苦労して手に入れた宝物を、捨ててしまうにはあまりにもったいないと思ったのだ。騒ぎが過ぎてしまえば、もう一度取り出して遊べばいいと考えた。子どもの浅知恵である。

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