侠客鬼瓦興業 第五話侠客鬼瓦興業
アジアチャンピオンのもと、6ミリ4ミリのみごとなパンチパーマ頭に変身させられてしまった僕は、ショックあまり、涙を流すことすら出来ず、ただ呆然と銀二さんの後を歩いていた…
「あっ、あのー銀二さん…、一つだけ聞きたいことが?…」
「あん、なんだ?」
銀二さんはタバコに火をつけながら振り返った
「あ、あのー、僕うっかり面接の時、仕事の内容聞き忘れてしまったんですが、鬼瓦興業の仕事っていったい…」
僕は思い切って銀二さんに聞いてみた、
「うちの仕事…?何いてっんのお前……ぶっ!」
「ぷっ、ぷわーははははっははははっはっはっはは!」
銀二さんは僕を見ながら、急に大笑いを始め
「わりいわりい、あんまりにもお前のパンチパーマ姿が面白かったからよー、ぷひゃひゃひゃ、腹いてー腹いてー」
質問に答えられる状態では無くなってしまった…、僕はしかたなく笑いころげる銀二さんのあとを、とぼとぼと歩き続け…やがて、気が付くと僕たちは会社の入り口に立ってたのだった…
「おせえぞ銀、早く仕事の支度しろよ!」
とつぜん会社の中庭から大きな声が聞こえてきた、見るとそこには、公園で出会った刺青の岩さん、それに鉄という岩さんにグローブで殴られていた、金髪の男、他に数人のガラの悪そうな人たちが、恐い顔で立っていた
「すんません岩さん、親父の言いつけで、この新入りアジアチャンピオンのとこ連れて行ってたんすよ…」
銀二さんはそう言いながら僕を見ると、またしてもゲラゲラ笑い始めてしまった
「新入り?…あれー!お前さっきのうんこの兄ちゃんじゃねえか!…何だうちの新人だったのか…」
「はっ、はい…」
「それにしても、えらい変身したなー、はははは…」
刺青の岩さんは僕を指差してうれしそうに笑った…続いて今度は、鉄という金髪男が、不気味な顔で近寄って来ると、鋭い目つきで僕を睨んできた
「なんだよ…、お、お、お前…、うちの新人だったんかよー」
「あっ、はい、そうです…」
僕は恐怖でガチガチに固りながら必死に答えた…そんな時、鉄という男の後ろから、一人のかっこいい男の人が現われ、鉄の頭をゴンと軽くこずいた。
「こら鉄、なーに新人君にガンくれてやがんだ!ばーか…」
まるで映画の二枚目俳優のようなその男の人は、優しい笑顔で僕に近寄ってきてくれた
「ほー、お前か、求人案内で面接に来た、お兄ちゃんてのは?」
「あ…はい!」
「名前は?」
「一条吉宗です!」
その二枚目俳優のような男の人は、たんたんと僕に話しかけてきた。
「ほー、いい名前じゃねえか、俺は高倉だ、よろしくな!、仕事はちょっときついけど、これから頑張れよ!」
そういいながら高倉という人は僕の肩をぽんと叩いた、僕は何となくそのやさしい笑顔に救われて、少しだけ緊張から解かれた思いがした…。
「おーいお前ら、これから一緒に働く、一条吉宗だ!しっかり面倒見てやれよ!」
「へーい」 「ほーい」 「あーいよろしくー」
岩さんをはじめ恐い顔の人たちは、いっせいに僕に声をかけてくれた。
「あ、ども、ども…」
僕はパンチパーマ頭をぽりぽりかきながら、こわばった顔で軽く会釈した…、その時だった今まで優しい笑顔を見せていた高倉さんが、急に赤鬼のような形相に変身して僕を睨みすえてきたのだ…
「この野郎~新入り、なーんだその挨拶のしかたは~!」
「ひ、ひぇーーーー!?」
あまりの急変ぶりと、その恐ろしい形相に僕は、思わず震えあがってしまった…
「すっ、すいません…すいません…」
「銀~、てめえ新入りに挨拶の仕方も教えなかったのか、この野郎!」
高倉さんはそういいながら銀二を睨みすえた。
「す、すいません頭…」
いままで気さくに笑っていた銀二さんは、その後、急に恐い顔になって、僕のそばにやってきた
「こら、吉宗、俺のやるとおり見てろ…」
そういうと銀二さんは、急に足をがばっと、ガニ股に開き、軽く前かがみになると、両膝の上にばんっと手を置いた、そして相手から鋭い目をはなざず、そのまま頭をさげると
「おはようございやーす」
今までとは打って変わったドスの聞いた声で、みんなに挨拶をした、そしてその体勢のまま、横目で僕を睨むと小声で
「何ぼーっとしてんだこら、お前も同じように挨拶しろ!…」
「あ!?…はっ、はい!」
僕は一生懸命なれないガニ股になると、見よう見真似で銀二さんと同じ格好で挨拶をした
「お…おはようございあまさまさまーあす」
僕は恐さからあわてて、思わずこんな挨拶をしてしまったのだった
「なんだー、そのわけの分からん挨拶は!それに声が小さい声がー!」
高倉さんは僕の顔の間近に、その鬼のような顔を突きつけてきた。」
「お、おはようございまーーーーす!」
僕はありったけの勇気をふりしぼって、大きな声でみんなに挨拶をした
高倉さんはそんな僕をしばらく腕組みしながら、恐い顔で見つめていた…
僕はがにまた姿のまま、そーっと、恐る恐るあたりを見渡し、そして高倉さんの顔をチラッと覗いた…、すると、今まであんなに恐ろしい形相だった高倉さんの顔が、最初にであったときのやさしい顔に戻っていたのだった
「やればできるじゃねえか、やれば…」
高倉さんはそう言いながら、僕のパンチパーマをぽんと軽くたたくと、
「おう、お前ら準備できたら行くぞー」
そう言いながら、鉄から白衣を受け取り、スバっとかっこよく羽織り、さっそうと肩で風を切りながら外にでていった…
「ふー、びっくりしたか吉宗、高倉さんは昔から挨拶だけはうるさいからよー」
銀二さんはその手に、一着の白い服を持って、僕の前にやさしい笑顔で現れた
「ほい仕事仕事、そんなスーツ姿じゃ仕事にならねーだろ…、早くこいつに着がえな!」
「着がえ?」
「まあ、うちのユニフォームってやつだ、ほれ早く着替えろ、今度は岩さんにどやされるぞ…」
僕は銀二さんから白いユニフォームを受け取ると、奥の倉庫でごそごそ着がえを始めた…、しかし、着がえ終わった僕は、思わず自分の姿に悶絶してしまった
「えーーーーーーーーーーーーー!?」
「銀二さん!銀二さん!な、なんですかこの格好はー!?」
気が付くと僕は、白いよれよれの襟のないダボシャツに、白いズボンおまけにお腹には真っ黒い腹巻、それはまるで、「男はつらいよ」で同じみ、フウテンの寅さんそのものという格好だったのだ…。
「銀二さん、銀二さん、銀二さん…」
僕は、自分の姿を指さしながら、銀二さんの周りをピョンピョンと飛び続けた
「おー、なかなか似合ってんじゃねえか、やっぱパンチパーマにはそのかっこだな…」
銀二さんは笑いながらそう言うと、僕に真新しいわらで出来た時代劇でよく見かける、ぞうりを差し出した
「なんですか?そのぞうり?」
「ぞうり、雪駄ってだよ、セッタ…ダボシャツに皮靴じゃカッコつかねーだろ、ほら…」
僕はしぶしぶそのセッタというゾウリに履き替えると、ちりちりのパンチパーマ頭に手をやりながら、目に涙をいっぱいためて小さな声でつぶやいた
「な、何なんだー、この頭といい、このユニフォームといい…いったいこの会社は、なんなんだーーーー!?」
「おおおお!よーく似合っとる、似合っとるぞー、若人よーーー!」
僕の背後からまたしても、聞き覚えのある大きな声が…振りかえるとそこには思った通り、満面の笑顔の社長の姿があったのだった
「うん、良い!良いぞー若人!やはり男は短髪、パンチパーマが一番いいぞー、似あっとる似あっとる!がーはははははははは!」
社長はまるで僕の頭を、ぺろっと一飲み出来るくらいの大きな口を開いて、うれしそうに、大笑いを続けていた…、僕は思い切ってそんな社長に訪ねた
「あのー、社長さん、一つだけ、伺っていいですか?…」
「んー?なんじゃ、若人よー」
「あのー、求人案内には、この会社、(子供達に夢と希望を与える会社)、そう書いてあったんですけど、いったいどんな仕事の会社なんですか?」
「なんじゃー!お前、知らんでうちに入ったのか?若人よー」
「は…はい…」
社長はきょとんとした顔で僕を見たが
「まあ良い、まあ良い、男なら仕事の中身なんぞ気にしないで面接に来る、そのくらいどーんと構えてないとなー、がはははは…」
高らかに笑い続けた
「はあ、はははは」
仕方なく僕もこわばった顔で社長と一緒に笑い続けた、そしてしばらくしてもう一度、社長に小声でたずねた
「で、あの仕事の内容って…?」
「的屋だよ…」
「てきや?…」
「そう的屋…」
「て、てきや?…」
「おう、祭り、縁日で子供達に夢と希望を与え続ける、あの的屋だー、的屋!」
社長は僕の頭を、ぽんぽんうれしそうにたたきながら、大声でそう叫び続けた…
「的屋…、的屋…、あ、あの的屋!?…」
「そうだ的屋だ、あの的屋、」
「的屋…、的屋…、的屋…、やっぱりあの的屋?…」
僕はショックのあまり、社長と共に、何度も何度もそのテキヤという言葉を繰り返し続けたのだった…
武州多摩でも名のあるテキヤ一家、侠客鬼瓦興業…
こうして僕は、そんなテキヤ稼業に見事就職…、その後、さらなる恐ろしい出来事を、乗り越えながら、この稼業で男を磨いて行く事になろうとは…、この時はまだ知るよしもなかったのだった…
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侠客鬼瓦興業 第六話めぐみちゃん|あとりえのぶ(atelier nobu) (note.com)
侠客☆吉宗くん第一話はこちら↓
侠客☆吉宗くん 第一話侠客誕生1|あとりえのぶ(atelier nobu) (note.com)
近日加筆修正してアップします^^
イラストも随時追加していきます♪