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少年の国

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太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
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#パンチョッパリ

少年の国 第一話国民学校

第一章 戦時中の記憶 ●国民学校と戦火の中 その日、僕の足取りは少し緊張していた。国民学校(小学校)の入学式に向かっていたからだ。初めての体験はだれでも緊張する。同時にどこかわくわくする気持ちにもなるはずだ。それが、緊張感が先にくるのには理由がある。それは今日から僕の名前が変わるせいだ。 それまでは「岩田」という日本ではごく普通の名前だったが、学校では「金」と名乗るように父から命じられていた。それがなぜだか当時の僕にはわからなかった。 「お前の本当の名前は『金』という

少年の国 第二話国民学校Ⅱ

嫌がらせはそれからも続いた。だれも遊びに誘ってくれることはない、僕から近寄って行くと、「うわ、朝鮮人が来た、にんにく臭せえ」と、鼻をつまんでみんな離れていってしまうし、さらには通りすがりに殴ってくる奴まで現れる始末だ。 そんなある日、家に帰った僕は思い切って母に思いを打ち明けた 「お母さん、僕、金じゃなくて岩田がいい」 夕飯の支度をしていた母は、手を止めると眉をしかめて僕を見た 「僕、金って名前、もう嫌だ…」 「学校で何かあったのか?」 「いや、べつに無いけど…」