マガジンのカバー画像

少年の国

31
太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
運営しているクリエイター

2016年1月の記事一覧

少年の国 第21話 泥団子戦記

●泥団子戦記  僕の通う福山小学校は、急遽野戦病院として使用されることになり、校舎での授業はできなくなった。代わりに鶴城公園での青空授業が続くことになる。教育内容も、かつての反日教育だけでなく、反共が声高く叫ばれるようになった。先生の声もややヒステリックになり、その緊張感は子どもたちにも伝染した。 近くの中学校では、軍事顧問による軍事訓練も始まって、緊張感がさらに高まっていった。  こうなると子どもの気持ちも荒んでくる。近くで大人たちが戦争をしていれば、子どもたちも真似を

少年の国 第20話 通信ケーブル事件

ある日、数人の米兵と韓国軍の兵士が村に現れ、盗まれたケーブルを探し始めたのだ。兵士たちは村の家々に顔をだしては、盗んだケーブルを隠し持っているものを知らないかと尋ね歩いていた。 当然、僕の家にも兵士が訪ねて来た。家の入口で兵士とハンメが話をしているのを、僕は部屋のなかからこっそり盗み聞きしていた。 「どうやら、この村にも北のスパイが潜入しているようだ」 「スパイ?」 詳しくは聞き取れなかったが、ハンメは兵士としばらく話をした後に部屋に戻ってきた。 「ハンメ、スパイっ

少年の国 第19話 子どもたちと戦争

●子どもたちと戦争  戦争は大人の世界だけでなく、子どもたちにも容赦なく襲いかかって来る。食糧事情の悪化は食生活を脅かす。子どもたちにとっては直接の脅威だ。停電が多くなり、電灯もつかなくなった。そこで、鮫の肝臓を天日で干して油を搾る。その油を綿に染み込ませて電灯代わりに燃やすのだが、暗いし、煙がひどく天井もすぐに真っ黒になった。  そこで、龍大や永吉たちと線路の土手下にあるガソリンの油送管を狙うことにした。継ぎ手の部分をゆるめてガソリンを盗むのである。夜になると瓶を持って

少年の国 第18話 朝鮮戦争

第三章 戦争が始まった  先に述べたように、朝鮮半島には北部を支配する朝鮮民主主義人民共和国と、南部の大韓民国が樹立していた。両政府は、ソ連とアメリカの援助の下で、着々と軍備を増強していった。一九四八年末には、ソ連軍が撤退し、翌年六月には米軍も撤退した。南北の対立は激化し、韓国ではパルチザン活動も活発化していった。  そしてついに一九五〇年六月二十五日、朝鮮人民軍は宣戦布告なしに38度線を越えて大々的な攻撃を開始し、朝鮮戦争が始まった。朝鮮人民軍の戦意は旺盛で、開戦三日目