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少年の国

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太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
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2015年11月の記事一覧

少年の国 第15話 川での事件

 夏になると、例の仲間たちを集めて、スイカや瓜の畑を狙った。夜の闇に紛れて川の向こうの畑を目指す。川は僕の集落の側が浅瀬で、向こう岸近くが深くなっている。そこで泳ぎの得意な年長者が向こう岸に二人ほど渡り、畑を物色する。農家の人の警備があるから、事は慎重に運ばなければならない。  スイカを手に入れるとそっと川岸に戻る。岸近くの深みには、立ち泳ぎをして待っている仲間がいて、それを受け取り、浅瀬にいる仲間に渡す。さらにこちら側の岸に上がって、所定の場所に貯めておく。これを繰り返し

少年の国 第14話 いたずらと冒険

●いたずらと冒険の日々  その後、僕の周りにはどんどん友だちが増えていった。それと同時に夜遊びの時間も増えだした。とくに決闘以来すっかり仲良くなったガキ大将の龍大と、いつも彼と遊んでいる永吉とはしょっちゅう遊んだ。  夜になると、家の近くの線路の上にみんなで座り、いろいろな話をしながら過ごす時間は楽しいものだった。  僕らの住む集落からそれほど遠くない所に、旧日本軍の飛行場の跡地があった。ほとんど放置されているので、僕らはそこによく忍び込んだ。目指すのは練習機の風防であ

少年の国 第13話 根性悪の正泰

彼女を巡っては正泰(ジョンテ)という同じ町に住む中学生から呼び出されたこともある。ある夜、突然正泰が家を訪ねて来た。 「お前が金海守だな、話があるからついて来い」 あまりたちの良い男ではなく、近所でも根性悪の正泰といって有名な奴の出現に、僕はしぶしぶ家を出た。 「あの、どこまで行くんですか?」緊張しながら訪ねると 「いいから、ついて来い」正泰はそのまま近くの林に入っていく。夜になれば不気味なところだが仕方がない。ついて行くと、大きな木の前で立ち止まり、僕をにらみつけた

少年の国 第12話 淡い初恋

●淡い初恋  龍大との思い出と同様に、僕にとってはもう一人、忘れようとしても忘れられない人がいる。朴善花だ。  彼女と初めて出会ったのは、夕暮れの共同井戸でのことだった。  僕はハンメに言いつけられ、いつものように井戸へ水汲みにやってきた。そこで見かけない女の子と出会った。  背丈は僕と同じくらい。きれいな黒髪を後ろで束ね、透き通るような肌に目鼻立ちの整った顔。そして上品な服を着た彼女は僕が今まで見たことのない、とてもきれいな女の子だった。 「あ、あの……」  僕