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少年の国

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太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
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2015年10月の記事一覧

少年の国 第11話 龍大との対決

芝生の種の一件から、僕はそれまで以上に猛勉強をした。韓国へ来た当時、最下位だった成績も、言葉が分かるようになった今では上位に入れるようになっていた。そうなると今まで僕をバカにしていた同級生たちの見る目も変わってくる。いつの間にか友だちも増えていたし、先生も僕のことを見直してくれるようになっていた。 「海守、お前また成績が上がったぞ。毎日頑張ってる証拠だな」  担任の先生は僕を褒めてくれた。僕はそれが嬉しくて、さらに一生懸命勉強をした。しかし、そんな僕のことを面白くない目で

少年の国 第十話 運動会と李龍大

父が去った後、僕は毎日遅くまで朝鮮語の勉強をした。時々日本へ戻りたいと、ひっそり涙を流すこともあったが、そんなときはいつも母の「強くなれ」という言葉と、僕やハンメのために毎日真っ黒になって働いてくれている萬守叔父の姿を見て、「僕も負けずに頑張ろう」そう心を奮い立たせていた。  そして三年生になった頃、僕は周囲の人々の言葉がだいぶ理解できるようになっていた。 その日は、運動会だった。昼休みになると、みんなは家族と一緒に楽しそうにご飯を食べている。僕の家はみんな忙しくて来てはく

少年の国 第9話 日本語との決別

●日本語との決別  当時の朝鮮の人たちは、厳しい冬を乗り越えるための暖房にオンドルを用いる。これに使用する薪は膨大なものだ。もちろんふだんの炊事にも薪を使う。薪はお金を出して買うわけではなく、自前でそれぞれの家族で確保しなければならない。  半島南部の山々は、その薪を採取するために、多くがはげ山になっていた。そのせいで、遠くの山まで出かけなければならず、僕も何度か、萬守叔父の手伝いで一緒に行った。小さい子どもでは、大した量の薪を運ぶこともできないし、かえって足手まといだっ

少年の国 第8話 パンチョッパリ

アボジも、ハンメも、子どものことだから学校へ行っていればすぐに朝鮮語も覚えるだろう、と考えていたようだ。ところがそんなに簡単にはいかない。第一に小学校は朝鮮語を教える所ではなく、朝鮮語で何かを教えるところなのだ。  当然ながら、授業を聞いても何も分からないし、教科書もまるで記号が書き連ねてあるようで、まったく読めない。生徒はもちろん先生も、僕にお構いなしに朝鮮語で話しつづける。アボジは「日本語を話せる先生もいるから」と言っていたが、「解放」後の反日感情が強いせいか、意図的に