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マンションじゃなくて長屋よ。な、が、や。

先日の「冷やし中華問題」の出来事があった帰り道、実はもう一つ素敵な出会いがあったのでご紹介。

バンバンジー乗せ冷やし中華を食べ終わって、家に帰るべく交差点で信号待ちをしていたら、少し離れたところから

ちょっと、お兄さん。

と声がかかる。自分に向けられた言葉だとすぐに気が付かずにワンテンポ遅れて声のする方に顔を向けると、そこには杖をついたとても上品な雰囲気の一人のおばあさんが立っていた。

横断歩道を渡る間、手を貸してもらってもいいかしら?
杖もあるんだけど、誰かと一緒のほうが安心して渡れるの。

ということだったので、もちろんですよ、とお伝えして手を取って一緒に横断歩道を渡る。その手は焼きたての食パンのようにふわっと柔らかくあたたかかった。

こんな人の手を借りないと道路も渡れないのに外になんか出ちゃだめよね。

そんなことを言うものだから、全然そんなことないですよ、と伝えながら横断歩道を渡りきって、その後向かう方向を聞くと道すがらだったので、そのまま手を取り、一緒に歩くことに。

そこのお店を越えた先の角のところなのよ。そこまでいいかしら?

自分の理解が間違っていないことを確認する為に、一応尋ねる。
そこの角のマンションまででよろしいですか?
すると

マンションじゃなくて長屋よ。な、が、や。ふふっ。

と返した可愛らしい笑顔と”いやね”の手の動作に一本取られた気分になる。

ちなみにそのマンションは駅周辺にある中では最も立派なマンション。
下町風情が残るこの街に合わせた嫌味のない見事な謙遜の表現。

おばあさんとエントランスで別れ、自宅の方へ一人で歩きながら、50年後こんな粋な返しをとっさに出来るような年の重ね方を果たして自分はできるのかな、と右手に高くそびえ立つ”長屋”を見上げながら思ったある日の昼下がりの出会いでした。


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