校則を見直し続けます。人物多様性とルールメイキング 【週刊新陽 #50】
新陽高校では、この度『生活指導規定』を廃止し、『学校生活規則』として新たに制定します。(いわゆる校則の見直し)
現在の生活指導規定は、創立当初からの規定をベースに改定してきたもので、これまで大幅な見直しはされていませんでした。そこで、本校の教育理念とビジョン2030を踏まえて、一から見直しを行いました。
近年、ブラック校則の廃止や生徒主体のルールメイキングなど、校則改革に関わる動きが全国で起きています。新陽ではなぜ、何をどうやって見直したか、これからどうしていこうとしているかを記録しておきたいと思います。
そしてこの発信を通して、生徒や保護者の皆さん、地域の方々にご理解いただくとともに、すこしでも全国で校則を見直そうとしている人たちのヒントになれば幸いです。
生活指導規定から学校生活規則へ
以下が新陽の新しい学校生活規則です。なお根本的な見直しに伴い、「多様な生徒が自由に、安心安全に学校生活を送るためのルール」として名称も変えました。
まず前文で、目的、前提となる考え方、そして規則の運用に関する位置付けを明確にしています。(これまで目的等は明示されていませんでした。)
そのあとに規則が並びます。なお、新しい学校生活規則には身だしなみに関する項目がありません。ルールではなく、本質的な対話の中で生徒自身が整えていくものと考えているからです。
なお、参考までに今年度までの校則はこちら(画像)です。
教員発案の校則見直しは是か非か
今回の校則見直しにおけるプロセスは、教員が新しい案を提案し生徒と保護者の方々へ代案等のコメントを募る、という形で進めました。
スケジュールは以下の通り。
2月7日:生徒指導部より新案提示
2月18日:新案の生徒・保護者への公開&代案の受付開始
2月21日:評議委員会(生徒)
2月24日:校則カフェ(生徒)
2月25日:校則カフェ(生徒)
2月28日:代案受付締切、評議委員会(生徒)
3月7日:代案コメント等を反映した新規則の完成
3月10日:管理職決裁
3月14日:確定した新規則の教職員への共有
3月16日:確定した新規則の生徒・保護者への公開
4月1日 :新規則の運用開始
ちなみに今年2月にスタートした校則の見直しは、校長である私が1月17日の運営会議(※)で「生活指導規定の見直しについて(再提案)」という文書と共に自分の意見を投げかけたことがきっかけとなっています。
※運営会議とは、各コース長や分掌長および管理職が学校運営に関する審議や情報共有を行う会議のこと。
その後、改定案をベースに話し合う方法で見直しを進めようということになり、生徒指導部と生徒会担当の先生たちが主導で新案をまとめてくれました。
ちなみに、再提案とあるとおり、さらにさかのぼると最初に私が投げかけたのは昨年11月末です。その際は「男子の髪の長さについて指定する項目の削除」を提案し、教職員からの意見をまとめた後、生徒たちの協議を経て決定する流れを予定していました。
ですが、この投げかけに対して他のルールや指導そのものに対してなど様々な意見が出てきたので、12月末に「生活指導規定を改めて検討するため、一部の文言削除ではなく全体について再提案をさせてほしい」と言いました。
全国各地で校則見直しについてのムーブメントが起きている中、生徒発案ではなく校長が発案したり教員が主導したりすることには様々なご意見があると思います。生徒が能動的に動くチャンスを奪った、と思われる方もいるかもしれません。
このやり方が良かったのか・・・正直まだ分かりませんが、なぜこのようなプロセスを踏んだのか、このあと説明したいと思います。
ルールが合ってない?
2030年に向けて新陽では『人物多様性』というビジョンを掲げています。このビジョンを実現する校則にすることが、見直しの1番の理由です。
4月に校長に着任してから、様々な機会を通じて校内外でビジョンを発信してきました。特に生徒たちには、全校集会で様々なゲストとの対談を行うなどして直接伝えています。
すると、ときどき「多様性というなら髪型が自由でないのはおかしい。」「個性の尊重について、校長先生はどう考えているんですか。」と話をしにくる生徒がいます。
彼らの声に対して、私は「ルールは守らなきゃだめだよね。でも、ルールがおかしいと思うなら変えていい。どうやって変えていいか分からなければ先生や私に相談して。」と答えていました。それは、生徒自身で校則を変えるという行動を起こし「自分たちで変えた」という体験をしてほしい、という思いがあったからです。
実際、中には「校則を見直そう」と動こうとしていた生徒もいたようです。でも具体的なアクションに至ることはありませんでした。どうやっていいか分からなかったのかもしれないし、言っても無駄と思っていたのかもしれない。あるいは、我慢できないほど不満でもなかったのかもしれません。
かつて、学校が荒れていると言われた時代には、新陽でも生徒指導が厳しく行われ生徒たちの成長を促すことに大きく作用していたのだと思います。それから時代の変化と共に生徒指導のあり方も変わっているのに、ルール自体は変わっていない現状がありました。
それがずっと引っ掛かってはいました。私自身、ルールがあるのに守らないのを見過ごしていることは、ルールは守らなくてもよいと教えていることにならないか、という後ろめたさもありました。
でも「ルールだから守れ」と注意するのも違う。と同時に例えば「なぜツーブロックがだめか」と聞かれても、自分は理由を答えられないとも思っていました(そもそも規定でNGにした時代のツーブロックと、今のツーブロックが違う気もします・・・)。
特に、「男子の髪の長さ」については説明できる自信が全くありませんでした。
『人物多様性』というビジョンが目指しているのは、一人ひとりの個性を大切にする、一人の中にも多様なキャラクターや色がある、互いの個性や自由を尊重することです。それはジェンダーについても同様です。
その観点から、昨年夏にWebサイトをリニューアルした際、制服の紹介から「男女」という表記をなくしました。
それなのに、男子だから髪が短くなければいけないというルールを残してあるのはどうなのか・・・「ルールは変えようとしていい。」と生徒たちに話している自分が、おかしいと思うのに行動しないのはそれこそおかしいと思ったのです。
そこで「学校理念やビジョンに基づくと、こうあるべきだと私は思うけど、先生たちはどう思う?生徒たちや保護者にも意見を聞いてみよう。」と働きかけました。
ルールメイキングはゴールではなく対話の通過点
生活指導は教育活動の一環です。だからそれは、生徒にどのように育って欲しいのかという方針に基づくべきです。
「髪型や化粧などのルールをなくしたら何でもOKになってしまうのではないか」「進路活動で不利になることはないか」「教員によって異なる指導が行われると混乱するのではないか」などの意見も出ています。これは教員だけではなく、生徒からもです。
このような意見を受けて思い浮かべるのは、自分の母校の話。東京にある中高一貫校の女子学院という私の母校は、1972年に服装自由化に踏みきりました。その際、学院長から保護者宛に出された所信の中にこうあります。
私も、今回の校則見直しの結果、もし生活や態度の乱れが起きるとすれば、その時は新陽の教育に問題があるとして根本的に考えるべきことがある、と思います。
それと共に、見直しに伴い不安や疑問が出てきたことは、教員と生徒、生徒同士、教員同士が対話するチャンスとも捉えています。今回の改定はゴールではなく、むしろこれを「新陽の教育がどうあるべきか」や「自分がどうありたいか」をみんなで考えるきっかけとしたい、リフレクション(振り返り)や対話が根付きつつある新陽ならそれができると思うからです。
今週の週刊新陽はずいぶん長くなってしまいましたが、最後に。
新陽ビジョン2030『人物多様性』が目指すのは、「持続可能な社会を目指して、生徒・教職員・社会が協創する」学校です。校則についても、生徒や保護者の皆さまそして地域の方々と「協創」していきたいと思っています。
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